荒川河川敷ホームレスの「アパート」と「別荘」を、中国人ジャーナリストが訪ねた
東京某所に住む中国人ジャーナリストの趙海成氏は、荒川の岸辺にある「小さな森」にいるホームレスたちと交流を続けている。彼らは放浪者であり、住所を持たないが、テントの小屋に暮らしている。新連載ルポ第1話
【文・写真:趙海成】 今朝7時、荒川の河川敷にジョギングに行った。3キロ走った後、すぐには家に帰らず、新荒川大橋近くの「小さな森」にもぐり込み、親友であるホームレスの桂さんと斉藤さん(共に仮名)の家を訪ねた。 【動画】ツイッター動画が人生を変えた......ホームレス・シンガーに続々とオファー 先に桂さんに会ったが、彼は昔、サーフィン、スケートボード、マウンテンバイクが大好きだったという。 その時はちょうど、桂さんは自転車でコンビニにタバコを買いに行こうとしていたが、私の姿を見て、帰ってきたらエビの捕り方を見せに連れて行ってくれると言った。好奇心旺盛な私は、それを楽しみに待つことにした。 桂さんの帰りを待つ間、彼の家からわずか数歩離れた斉藤家に向かった。彼ら二人とも自分が住んでいるテントの小屋を「家」と見なしている。違うのは、斉藤さんが自分の家を「アパート」と呼んでいること、桂さんは自分の家を「別荘」と呼んでいること。このような比喩は適切と思う。 桂家にはテント小屋が3軒あり、ほかに小さな倉庫が2軒ある。斉藤さんはテント小屋と小さな倉庫しかなく、しかも全て桂さんが建てたものだ。 桂さんによると、斉藤さんは彼のところに移る前は家がなく、大きな段ボールの中で寝ていただけだという。斉藤さんも、桂さんのおかげで今の家が出来たと認めている。 日本ではホームレス(homeless)とは、家を持たず、放浪している人を指す。中国では、「遊民」「野宿族」「街友」「流浪漢」など、ほかにもたくさんの呼び名がある。 彼らの中には確かに居場所がなく、各地を転々としている人もいるが、私が知っているホームレスのほとんどは荒川の岸辺の小さな森に長く住んでいる。ただ彼らが住む、自分で建てた粗末な家は、政府に認められていないだけだ。
ラジオでニュースを聞くのが好きな斎藤さん
斉藤さんの「アパート」の前に着くと、ドアが開いていて、床に座ってコーヒーを味わっていた。斉藤さんに「今日は何をするつもりか」と聞いたら、あとで川口の碁会所に碁を打ちに行く、と言った。 指導教官レベルであるアマチュア囲碁6段を持つ彼は、時々、碁会所に向かう。彼の目的は、人と勝負に行くことでも、賭けに行くことでもない。頭を働かせることで、認知症の進行を遅らせることができる、と言うのだ。 斉藤さんは囲碁だけでなく、競馬、競艇なども好きだ。私は彼のベッドの上に競馬の情報が載ったスポーツ新聞が何枚も置いてあるのを見て、彼は「ギャンブル」への関心が高いのだと分かった。 彼がホームレスになったことが、ギャンブル好きであることと関係があるとは断言できないが、その可能性は否定できないだろう。 斉藤さんと雑談していたとき、彼が持つ小さなラジオでは、日本の参議院議員選挙に関するニュースが流れていたことに気づいた。斉藤さんに聞いた、「あなたは総選挙の投票に参加できますか」と。彼は「できない」と言った。なぜなら、彼のようなホームレスには「住民票」(戸籍証明書)がなく、選挙権を失っているも同然だからだ。 道理は簡単で、選挙の前には各自治体が選挙権のある人に「投票所入場整理券」を郵送する。斉藤さんたちは家を持っているが、正規の住所がないので、自治体から荷物が届くことはない。 「なぜ選挙のニュースを聞くのか」という質問に斉藤さんは、「国民として国家の大事に関心を持ち、また時事ニュースをよく聞くことは、頭を働かせるのにも役立つ」と答えた。 「もし投票に行くことができたら、あなたはどの政党の候補者に投票しますか?」と質問すると、ほとんど躊躇せず、こう答えた。「もちろん自民党ですよ!」 私はまた、ある問題に頭を巡らせた。コロナ禍で、日本政府は住民全員に補助金10万円を支給した。外国人である私も受け取ったが、彼らホームレスも受け取ったのだろうか。 斉藤さんによると、このような良いことにも彼らの分はない。なぜなら、投票権の問題と同じく、住所や「住民票」が固定されていないからだという。 斉藤さんと話をしていると、桂さんがタバコを買って帰ってきた。私は、斉藤さんとの会話を終え、桂さんのエビ漁の見学のためついて行った。