CVTにDCT、AMT……ミッションは何種類ある?
(b)トルクコンバーター(トルコン) 発進デバイスの役割だけで言うなら流体継手(りゅうたいつぎて)と言うべきなのかもしれない。これは一対の扇風機のようなもので、片方が風を送ると、他方はその風で回される。送風側はエンジンにつながっていて、風を受ける側はギヤを介して車輪につながっている。 風が弱い低速時は止まっていることができて、自動クラッチとして機能する。停止状態から徐々に風を強めてスムーズな発進ができるので、洗練された発進ができる。実際のトルコンは空気の風ではなく油の流れで力を伝えている。 流れが緩やかだと止まっていられるということは、別の見方をすれば、力の一部は油を掻きまわすだけで動力として活かされていない。トルコンにはスリップロスがあってこれが燃費を悪くする原因になっている。 かつてはステップATの専用品に近く、そのためステップATは今でも「トルコンAT」と呼ばれることが多いが、近年ではCVTも、そのほとんどが発進デバイスとしてこのトルコンを使っている他、DCTにも採用例がある。そのため呼称が過渡期にあって分かりにくくなっている。正確を期すなら「トルコンステップAT」「トルコンCVT」「トルコンDCT」と呼ぶべきだが、慣習的に呼び名が変わりつつあるのはトルコンステップATだけである。 (c)モーター式 アイドリング回転数をどこまでもは下げられないエンジンと違って、モーターは静止状態から起動することができ、かつその時に一番力がでる。発進用デバイスとして、モーターは単独で優秀な特性を持っているのだ。ハイブリッドなどではこの特性を用いて、発進をモーターで行い、クラッチのような断続式の発進デバイスを持たないものもある。厳密に言えばモーターとエンジンの間では断続機構があるのだが、それは発進用というより2種類のパワーソースを使い分けるための機構だ。 全体的な傾向は明らかで、乗用車用発進システムとして最も優秀なのはモーターである。しかし、モーターはハイブリッドでないと実装できないため、どのクルマにでもというわけにはいかない。そこで現実的な選択肢となるのは、トルコンである。摩擦板方式はまだ発展途上にあり、今後の成長は期待されるが、現状ではまだまだ実力差が大きい。 だいぶ長くなったので、変速機構そのものの話は後編として次回に回したい。 (池田直渡・モータージャーナル)