「開発チームが語るスズキGSX-8Rの実力」GSX-R不在の時代に現れた、サーキットもイケるフルカウルスポーツ
ショーワ製SFF-BP採用の狙い
GSX-8Rはネイキッドをベースにただカウルを装備しただけではない。専用開発のサスペンションを採用したほか、細かな調整も行われている。車体設計を担当したプラットフォーム設計グループの岡村拓哉さんは具体的な狙いについて次にように語る。 「快適性とスポーツ性を両立するため、GSX-8Sから4つを変更しました。カウリングを装着し(①)、ハンドル位置を下げることで前輪分担荷重が増し(②)、フロントの接地感を向上させました。ヘッドライトとメーターのマウント位置をハンドルからカウリングに変更(③)することで、ステアリング周りの慣性力を低減させ、軽快なハンドリングを可能にしました。サスペンションはGSX-8R専用に開発(④)しました。セッティングの変更はもちろんのこと、加速性能と最高速が向上し、前輪分担荷重が増えたGSX-8Rの運動性能を最大限に引き出すため、フロントフォークのアンダーブラケットの掴み部を3mm大きくして剛性を向上させています。 快適性とスポーツ性を両立するため、サスペンションは軽量で作動性が良く、微小なストロークから必要な減衰力を出せる特性が必要だと判断しました。そのために最適なものが、ショーワのSFF-BPでした。このサスペンションはフォークの左右で機能を分離させ(SFF=セパレートファンクションフォーク)、減衰発生機構を片側に集約しています。それにより部品点数が減り、軽量化につながっています。また、ピストンがひとつになることで、フリクションの低減にも貢献しています」 SFF-BPはその名の通り「ビッグピストン(BP)」であることがもうひとつの特徴。フォークインナーチューブ径が41mmの場合、一般的に直径20mmのピストンが使われるが、SFF-BFでは直径37.6mmピストンを使う。受圧面積が増えることで、微小なストロークから高い減衰力を発生することができ、低速ではしなやかで快適、高速ではしっかりと安定した性能を発揮する、と岡村さん。 「入力(サスペンションを縮める力)が小さな街乗りではしなやかにサスペンションが動き、スポーツ走行などではノーズダイブを抑えることができます。この特性を生かしてGSX-8R専用にセッティングを進めていきました。しかし、テストライダーからの『GSX-8Sのようなニュートラルで軽いハンドリング』という要求が非常に高く、満足のいく操縦安定性をなかなか作り込むことができませんでした。 結果が出たのは、フォークのスプリングをシングルレート化し、ストロークに対する特性変化を少なくしたことです。これにより150gの軽量化にも貢献しています。そしてバルブセッティングを繰り返し、低速から高速までリニアに減衰が発生する諸元を作り込みました。どこかひとつを変えると、ほかとの関係が悪くなる、ということの繰り返しで、テストした諸元は100をゆうに超えます」