「開発チームが語るスズキGSX-8Rの実力」GSX-R不在の時代に現れた、サーキットもイケるフルカウルスポーツ
エンジン実験グループの柴野 謙さんからはエンジンの特性について説明が行われた。 「出力特性は低回転の力強さと、中から高回転の伸びやかなバランスについて、SV650のものを基本にこれを強化する方向で開発しました。そのため、最高出力発生回転数はSV650と同等としながら、低回転から中回転のトルクに厚みを持たせたものとしています。最大トルク発生回転数もSV650と同等の6800回転ですが、その90%を5000回転で発生して力強い走りを実現しました」 裏を読むと、新開発されたこの並列2気筒エンジンはSV650、Vストローム650に搭載されるV型2気筒エンジンの後継機として開発され、近い将来にあの名機、645cc90度V型2気筒エンジンがなくなってしまうのか……と邪推してしまうが、今回そのような公式コメントはなかった。 「GSX-8Rには電子制御システム『S.I.R.S.』を搭載しています。まず電子制御スロットルですが、アクセルワイヤーを持たないグリップ一体型のアクセルポジションセンサーを採用しています。これはVストローム1050から採用しているもので、800シリーズのものはバージョンアップ版です。変更は3ヵ所あり、1つは、アクセルグリップに安定感を出すため、機械的なアソビを追加しました。2つめは、全閉から開けはじめのイニシャル荷重を高め、微開度の操作性を向上したことです。3つめはスロットルを開けていくときの荷重の傾きを寝かせることで、リニアな操作性と疲労軽減を実現しました」 ライディングモードは『A:アクティブ』、『B:ベーシック』、『C:コンフォート』の3モードを搭載するが、開発で最も注力したのは中回転域の出力特性だという。 「最高出力と発生回転数はどのモードも同じですが、Cモードは中回転領域をやや抑制していて、この領域でアクセルを全開にしても、出力は最大になりません。3つのモードの差をわかりやすくし、ライダーの走行状況に応じて使い分けていただくことを想定しています」 そのほか、Vストローム1000で初採用した、MotoGPのノウハウをフィードバックしたトラクションコントロール(STCS)、アップ/ダウン対応の双方向クイックシフトシステム(オフも可能)、イージースタートシステム、ローRPMアシストも含め、電子制御デバイスはGSX-8Sと同じものを搭載している。 「Vストローム800/DEとGSX-8S/8Rの4機種はほぼ同時に開発が進み、エンジンの開発はすべて同じメンバーで行われました。ひとつの機種の作り込みを行うなかで、別機種の作り込みでさらに良いものがあれば、立ち戻って採用する作業を行なったため、単独の開発よりも大量のフィードバックが得られました。そのぶん担当者は大変でしたが、結果として完成度がとても高い車両ができたと自負しております。スペックに表れない部分も大事に開発しました」