大河出演・矢部太郎「人生をつくるプレゼント」 乙丸役が好評、芸人・漫画家などマルチに活躍
「僕のプレゼント、全然喜ばれないんです。紙粘土で作った人形をあげて『全然いらない』って言われたり、庭で採れたゴーヤをあげて『ゴーヤ好きじゃない』って言われたり。あげたいものをあげるって、ちょっと暴力的だったのかなと思いつつ、でも『いらない』って言われることで、ひとつのコミュニケーションになっているんじゃないかなと思うところもあります。 例えばお見舞いに行って、空気を緩和するために、今使えないものをプレゼントするみたいなボケってありえると思う。必ずしも、ものそのものが大事なんじゃなくて、つながりを持ちたいからプレゼントするわけで、返礼が伴うし、つながりが強固になる。その場のコミュニケーションが成立すればいいのかな、というところはあります」
プレゼントがコミュニケーションだとすれば、相手によって角度を変えることで、唯一無二のやり取りになるかもしれない。無難なプレゼント選びから一歩踏み出すことで、より深いつながりが得られることもあるのだ。 ■プレゼントを贈る=「誰かに心を手渡すこと」 「プレゼントは、相手に自分を差し出すことだから、時には暴力にもなりますよね。 この本の最後に、直接には示していないけれど、僕が『電波少年』で、イスラエルとパレスチナに行ったときのエピソードが描かれています。僕はイスラエルとパレスチナ、それぞれの街でコントをしました。
そのときのコントのひとつに、『相手に向けて撃った銃弾が、地球を一周し、巡り巡って自分に当たってしまう』というネタがあったんです。当時、双方の兵士がウケて笑ってくれた。その思い出をもとに描きました。 戦争や暴力は相手に自分の正義や欲望、衝動をぶつけることです。僕はそれも、プレゼントなのだと思うのです。我々が普段思い描くプレゼントとは、まったく違いますが……」 漫画では、巡ってきた銃弾の代わりに、リボンをかけたプレゼントが飛んできて、ネタを披露していた矢部さんは、そのプレゼントをギュッと抱きしめる。
誰かに何かを差し出し、相手から何かを返される。 『プレゼントでできている』を読んでいると、その繰り返しが織りなす世界に想いを馳せずにはいられない。笑ったり、しみじみしたりしながらページをめくり、読み終えた頃には、きっと身近な誰かに、プレゼントを贈りたくなっている。
蜂谷 智子 :ライター・編集者