和田秀樹「日本人はインプットばかり。アウトプットで脳を活性化すべき」【オリックス宮内対談②】
世の中は一般化などできない
和田 若手の経営者には、どんな失敗談を話すのですか? 宮内 失敗はいっぱいありますからね(笑)。しかも相手は一人一人、年齢も業種も、企業規模も違いますから。一般論で「こうしなさい」で言えるものではないですね。 和田 それは僕も医者をやっているのでわかります。医者に対しては「患者さんの顔を見ずに電子カルテばかり見てる」という批判が結構多いんですけど。やっぱり人間って一人一人違うし、年を取るほど個人差は大きくなります。例えば、宮内さんと同じ年でも、認知症や寝たきりの人もいる。家庭環境や食生活も違うし、若い頃からの習慣も違う。いろんな理由が蓄積して、70歳を過ぎる頃から差が大きくなってくるんです。 宮内 なるほど。 和田 ですから、本来、医療はケース・バイ・ケースで行うべきです。なのに現実は真逆で、「この血圧にはこの薬」という一般化の医療が当たり前になっている。僕はこれ、絶対違うと思ってるんですよ。 宮内 画一的に応じるのは無理がありますよね。 和田 今やAIの時代です。検査結果や画像データから診断して薬を出すなら、AIのほうが優秀ですよ。そうなると、医者は不要になります。 宮内 困りますね。企業経営にもこれからAIに助けてもらう部分が増えてきます。AIをどう利用して経営判断につなげるかが課題になってくるでしょう。 和田 だけど、医者にはAIにはない生きた知恵があります。一対一で話をして「この人、自分の経験から診て、ここが問題だ」と気づく。あるいは長年、その患者さんを診てきたからこそ気づける変化もある。いわゆる「主治医」とか「かかりつけ医」という状態だからできる個別の医療です。先ほど宮内さんが「相談者にわかってもらうには信頼関係が必要」と仰いましたが、医療も同じで信頼関係が大事なんです。 宮内 仰る通りですね。 和田 信頼関係からは意外なメリットも生まれます。例えば、「この医師に診てもらうと安心する」とか「なんか気が楽になる」ってありますよね。心理効果が、治療効果を上げていることがあるんです。宮内さんの経営や相談も、私の医療も、人が相手ですから十把一絡げに一般化なんてできない。それぞれの問題や事象に対して一つ一つ誠実に、懸命に向き合うしかないのだと思います。 宮内 本当にそう思いますね。一人一人、一つ一つ全然違いますから。 ※3回目に続く 宮内義彦/Yoshihiko Miyauchi オリックス シニア・チェアマン。1935年兵庫県生まれ。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職に。著書は『諦めないオーナー』など多数。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
TEXT=山城稔