「ハームリダクションで包摂的な社会をつくる」今こそメディアが果たすべき役割と議論の深め方
ステークホルダー不足を補って議論を
瀬尾:これまで日本では、ハームリダクションについて十分に議論されていません。メディアで議論を深めるにはどうしたらいいでしょうか。 堀: 「ステークホルダー不足を補う」ということが1つの解になると考えています。先ほど、たばこと火災の関係についての話が出てきましたが、この場に保険会社の人がいれば、議論がさらに活性化すると思います。 特定のターゲットに対しての対処法ではなく、様々なステークホルダーが関わるところで、ハームリダクションがどのように関わっていくかを考えることが大切です。 マスメディアがアジェンダセッティングをしてしまうと、どうしても空振りになりがち。一般市民を含めた色んなステークホルダーが同じ目線で議論して、自分たちの立場から見えている世界を共有し合うところから始めるべきです。やはり市民目線、現場から色んな案を出して、最終的に国を動かすという議論の進め方に変えていかなければなりません。
当事者の声にこそヒントがある
瀬尾: 「包摂性のある社会をつくる」というのは、まさにそういうこと。市民やパブリック空間の中で生まれてきている多様な価値観を拾っていくこと必要がありますね。 岩永: 依存症の分野に引き付けて言うと、当事者の声を1つの角度じゃなくて、様々な角度から取り上げるべきだと考えています。 薬物依存症で逮捕された人は、逮捕報道ばかりされてきたわけです。アイドルグループ「KAT-TUN」の元メンバー、田中聖さんに取材した際、彼は「メディアにバッシングされたことで自分には価値が無い」「自分はもうダメなんだ」と落ち込んでいました。 日本において薬物の有害性が最も高いのは、体への害というよりも、メディアに報じられたり逮捕されたりすることであるわけです。 その意味でハームリダクションを実現するには、「その人がなぜ薬物を使ったのか」「逮捕や厳罰が本当に必要なのか」という点をメディア自身が問い直す必要があります。逮捕や厳罰、一辺倒な報道が本人とってプラスになったのかどうか、当事者の声にヒントがあると考えています。 堀: 報道する中身を精査していくことが大切ですよね。消費されて終わるようなコンテンツを出すのが報道じゃない。逮捕者が出て警察署に行って、送検される様子を撮影して終わりというようなやり方をアップデートする必要があると思います。 岩永: まさに報じ方だと思います。ワイドショーでは、有名人が逮捕されたら、街頭インタビューで「がっかりです」と声を拾い、知り合いの芸能人に取材して「叱りつけたい思いです」というような声を取って終わる。こういう社会的なステイグマを増やすコメントを取ってバッシングするような一辺倒な報道はそろそろやめるべきだと強く思います。