日銀支店長会議:賃金上昇に広がりは見られるが物価の先行きはなお不確実
地域の中小企業で賃上げの動きに広がり
日本銀行は7月8日に支店長会議を開いた。当日に発表したさくらレポート(地域経済報告)では、9地域中2地域(北陸、近畿)で景気判断が上方修正される一方、2地域(北海道、四国)では下方修正され、全体としては景気情勢に大きな変化は見られなかった。 各支店長の報告を総括すると、個人消費については、スーパーなどを中心に物価高を受け消費者の節約志向の傾向が強まっているとの報告が複数あった。他方、多くの地域から観光・宿泊・外食などサービス消費が堅調に推移し、都市部の百貨店で高額商品の販売が好調との報告があった。しかし、これは主にインバウンド需要によるものであり、国内消費者の消費活動は弱さが続いていると考えられる。 一方で、地域の中小企業では、昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりがみられる、との報告があった。 物価については、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の動きは一段と緩やかになっているほか、消費者の節約志向が強まるもとで、値上げの抑制や一部商品の値下げ、低価格の品揃え強化などの動きも増えてきている、との報告が複数あった。一方で、サービス業など、人件費比率の高い業種や人手不足感が強い業種を中心に、転嫁を実施・検討する動きに広がりがみられているとの報告が多かった。
賃金から価格への転嫁の動きはまだ明確に確認できていない
これらを総合すると、賃金上昇には地域の中小企業にも一定程度の広がりが確認される。これは、日本銀行の追加利上げを後押しする材料と言えるだろう。 ただし、日本銀行が2%の物価目標達成の確度が高まったと判断するには、賃金上昇率の高まりと広がりだけでは十分ではないだろう。賃金上昇が価格に転嫁されることで、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇の実現が見えてくることが必要となる。この2番目の条件については、なお満たされているとは言い難い。 人件費比率の高い業種や人手不足感が強い業種を中心に、転嫁を実施・検討する動きに広がりがみられているとの報告がある一方、消費者の節約志向が強まるもとで、値上げの抑制や一部商品の値下げ、低価格の品揃え強化などの動きも増えてきているとの報告もある、など情報はなおミックスだ。 さらに、消費者物価統計で最も基調的な部分を示す食料(除く酒類)・エネルギーを除く指数は、昨年末の前年同月比+2.8%から5月には同+1.7%まで低下してきており、輸入物価上昇の影響が次第に薄れる中で、基調的な物価は2%の物価目標の水準では安定せず、さらに下振れる傾向を見せている。 そして、消費者物価統計でサービス価格の上昇率も低下傾向を辿っており、今のところは賃金上昇分が明確に転嫁されることで、サービス価格が主導する形で基調的な物価上昇率が再び上向く兆しは確認されていない。 日本銀行が、賃金上昇の物価への影響を統計で確認したうえで追加利上げを決めるのであるとすれば、7月の決定会合はその時期としてはまだ早すぎるのではないか。また、個人消費の弱さも、早期の追加利上げ実施の制約となるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英