じつは「東大卒」の研究者だった…! 絵本作家・かこさとしさん流「小学生からの理系教育」の”すごい極意”
絵本作家であり、児童文化の研究者でもあったかこさとしさんが亡くなったのは2018年5月のことだった。工学博士でもあったかこさんは、さまざまな分野の科学系の絵本も数多く上梓した。 【画像】かこさとしさんの「素敵すぎる&学びたくなる絵」…! 今回、1981年~初版が刊行された『絵で見る 化学のせかい』シリーズが、データや表現を改訂したうえで、『かこ さとし 新・絵でみる化学のせかい』シリーズとして全5巻で改訂・復刊されることになった。監修は、かこさんとも親交の深かった、藤嶋昭・東京理科大学栄誉教授である。藤嶋さんは、酸化チタンによる光触媒の発見者として世界的に高名な化学者だ。その経緯やこの化学絵本をベースにした理系教育について藤嶋さんにお話を伺った。
40年前の絵本が現在でも通用する
40年前のシリーズは、日本化学会の監修で刊行された。「当時の日本化学会会長の斎藤信房先生をはじめ、当時のシリーズに関わっていらっしゃった先生方について直接存じ上げていますし、元のシリーズも以前から読んでいました」と藤嶋さん。復刊の話を聞いたときには、初版から随分と年月がたっていることもあり、かなり修正が必要になるかもしれないと思ったそうだ。 「ただ実際に内容を見ると、そこまで大きな修正は必要ありませんでした。かこ先生が40年以上前にお書きになったことは今でも通用するのです。この本の内容は、現代でも活かせます。そういった意味で、このシリーズがまた多くの人に読んでもらえるのは素晴らしいことだと思います」 かこさん自身、科学絵本はそれを読んだ子どもたちが大人になってからその知識を活かせるよう、少なくとも20年以上のちまで通用することを心がけて作られていたようだ。そうはいっても、科学の世界は日進月歩。今となっては科学的により新しく更新された話も多い。今回の新シリーズでは、最新の知見に基づいて、注釈の形で新しい話題が随所に追記されている。 たとえば3巻の『化学の大サーカス 技術の歴史』では、下記の通り、2004年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、においのメカニズムを解明する嗅覚受容体遺伝子の発見について触れられている。 復刊作業に取り掛かった当初は、データは新しくするものの、初版をできるだけ変えないことを編集方針としていた。しかし編集作業が進むにつれて、今の読者にもより役立つものをというかこさんのご家族の思いもあり、適宜新たな情報を付け加えていく方向に変わっていったという。編集作業の最後のぎりぎりの段階まで、追加する新原稿に関するやり取りが続けられた。 『絵で見る 化学のせかい』は、未来の化学者を育てたいというかこさんの強い意志がこもったシリーズである。漢字にはすべてルビが振ってあり、小中学生が主な読者対象ではある。ただ高校生や、さらには大人が読んでも役に立つと藤嶋さんはいう。 「たとえば高校生であれば、この分野が面白いから将来やってみたいなと思わせるようなヒントが散りばめられています。そういうきっかけになりうるものが、シリーズ全5巻の中であちらこちらにみられます」