英カンタベリー大主教が辞任 教会関連の故人による子供への加害に対策不十分と批判され
英イングランド教会の指導者、カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー師(68)が12日、辞任すると発表した。大主教をめぐっては、教会にかかわりのあった故人が長年にわたり少年や若い男性に暴力をふるっていたと2013年に報告されたものの、直ちに警察に通報しなかったことが今月初めに公表された第三者調査報告書で明らかになり、教会幹部からも辞任要求が出ていた。 ウェルビー牧師は声明で、「国王陛下の寛大な許しを求めたうえで、カンタベリー大主教として辞任することに決めた」と発表。問題となっている故人による加害事件への教会の対応について、「私が個人として、そして組織の代表として、責任をとらなくてはならないのは、きわめて明白」だと述べた。 「イングランド教会がいかに真剣に、変化の重要性を理解し、これまでより安全な教会を作るために深く献身するつもりでいるか、この決定を通じて明確になることを期待している」と大主教は続け、「虐待のすべての被害者と、虐待されて生き延びたすべての人と共に悲しみつつ、私は辞任する」と述べた。 大主教の辞任に先立ち今月7日、イングランド教会が第三者に託していた独立調査の報告書が公表されていた。その内容は、イギリスで「勅撰弁護士」にも任命されていたジョン・スマイス弁護士(2018年に死去)が1970年代から長年にわたり、キリスト教のサマーキャンプなどで知り合った子供や若い男性に「恐ろしい」暴力行為を繰り返したとされる問題に関するもので、教会は児童福祉の専門家に調査を託していた。 その結果、報告書はカンタベリー大主教が長年の加害問題について2013年の時点で承知していたものの、適切に対応しなかったと指摘。故スマイス弁護士による約130人に対する暴力行為について、大主教が報告を受けた2013年の時点で教会が当局に通報していれば、スマイス氏が2018年に南アフリカ・ケープタウンにおいて77歳で死去する前に、刑事司法で裁くことができたかもしれないと指摘した。 これを受けて、カンタベリー大主教ウェルビー師は当初、謝罪しながらも、辞任はしないと述べていた。しかしこれについて、教会幹部の主教や牧師が、留任はあり得ないと批判し、大主教の辞任を求めていた。 12日に辞任を発表した大主教は、報告書が公表されて以来、「イングランド教会が歴史的に、(常習的加害者から子供たちなどを)守ってこられなかったことを、深く恥じていた」のだと明らかにし、今後は「被害者に会うという約束を果たし続ける」とも述べた。 大主教はそのうえで、「深く愛し、そのために仕える名誉を得たイングランド教会にとって、自分の辞任が最善のことだと信じる」として、「イエス・キリストが私たち全員に抱く愛の方向へ、この決定が私たちを再び導いてくれるよう祈る。私が何より深く仕えるのは、イエス・キリストその人なので。私の救世主で、私の神。この世の罪と重荷を、そしてすべての人の希望を担った人なので」と結んだ。 ■50年近く3カ国で約130人に加害 (※この記事にはこの先、加害行為の描写があります) イングランド教会に関係する加害常習者の中でも、最も多くの被害者を出したのが故スマイス弁護士だとされている。 50年近くにわたり、3カ国で、計約130人に対して、身体的、性的、精神的、そして信仰上の暴力を加え、トラウマを与えていたという。 報告書によると、スマイス弁護士は1970年代から1980年代にかけてイギリスで26~30人の少年と青年に加害行為を重ねた。その後はジンバブエと南アフリカに移住し、少なくとも85人の青少年が被害に遭った。ただし実際の被害者の人数は「おそらくもっと多い」ともされる。 報告書によれば、スマイス弁護士は1970年代から1980年代にかけてイングランド南西部のユワン・ミンスターで福音主義の若いキリスト教徒のためのサマーキャンプを主催していた。聖職者ではないながら、信者の間の重鎮として、キリスト教の教えを他の信者に伝える役を果たしていた。 それ以前には、1960年代のイギリスで強固に保守的な道徳を守るよう主張した活動家、メアリー・ホワイトハウス氏の法廷弁護人を務めた。 スマイス弁護士が少年に暴力をふるっているという話は、英民放チャンネル4ニュースが2017年2月に初めて報道した。サマーキャンプが開かれていたユワン・ミンスターで、キャンプ費用を負担していた教会信託組織が1982年に行った調査の結果が、2016年に初めて公表されたのを受けての報道だった。 それによると、スマイス弁護士はウィンチェスター・コレッジなど有名私立校の生徒を選び出し、英南部ウィンチェスター郊外の自宅に連れ込み、庭の小屋で少年たちを庭木用の支柱などでたたいたという。 ユワン信託の報告によると、3年以上にわたり少年8人は計1万4000回、2人は8000回、打たれたとされる。ひどく出血するほど打たれた被害者も大勢いるという。 教会関係者が弁護士を問いただし、その結果、弁護士夫妻はジンバブエに移住することになったという。 同信託は「恐ろしい」ことだとしつつも、2013年になるまで30年以上、警察に通報しなかった。 ■かつて知り合いだった ウェルビー大主教はかつて、牧師としてユワン・ミンスターのサマーキャンプにボランティアで協力していた際に、スマイス弁護士に会っている。2017年に大主教は当時を振り返り、弁護士が「チャーミングで楽しい、頭のいい人だったのは覚えているが、特に親しいわけではなかった」と述べ、当時は加害行為について何も気づいていなかったと話した。 ウェルビー師が2013年3月に大主教になった後、その4カ月後の時点で、スマイス弁護士による常習的な加害行動についてイングランド教会幹部は知らされていたと、今回の独立調査報告書は指摘。教会はイギリスの警察と南アフリカ当局に、「適切かつ効果的に」通報すべきだったと述べている。 スマイス弁護士は1984年にジンバブエに移住し、有名校の生徒を集めたサマーキャンプを主催。1997年に16歳少年が溺死した事件に関係し、逮捕されたものの、立件されなかった。その後、南アフリカに移住したが、2018年8月に死去する前年、妻と共にケープタウンの教会から破門されている。 ※この記事の内容に影響を受けた方に、BBCはイギリス内での相談先を紹介しています(英語)。 また、日本の内閣府が、性犯罪・性暴力、子どもの人権などに関する相談先をこちらで紹介しています。 (英語記事 Archbishop of Canterbury resigns over Church abuse scandal / Archbishop Justin Welby's statement in full )
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