中東の戦火は内戦下のシリアへ 反体制派、「親アサド同盟」弱体化のスキ突く
【カイロ=佐藤貴生】内戦下のシリアでアサド政権が支配していた国内第2の都市、北部アレッポの大部分を反体制派が奪還し、首都ダマスカスへと南下する勢いをみせている。昨年10月のイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘開始に端を発する中東の戦火は一向に収束せず、レバノンをへてシリアへと拡大した格好だ。 シリア人権監視団(英国)によると、反体制派は11月27日に進軍を開始し、12月1日にはアレッポの大半を制圧、中部ハマの郊外まで到達した。攻防による死者は計370人を超えた。もともと反体制派の巣窟だった北西部イドリブと合わせ、支配地域を急速に広げている。 アサド政権を支持するロシアはアレッポやイドリブの反体制派の拠点を爆撃し、政権軍も反撃に向けて態勢を整えている。 ただ、ロシアは侵略したウクライナへの対応に忙殺されている。同様にアサド政権を支援するイランやレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラも、イスラエルとの戦闘で戦力や組織力が弱体化した。反体制派の攻撃はこうした事情に乗じて行われたと指摘される。 反体制派の主力はイスラム過激派の「シリア解放機構」(HTS)だ。「ヌスラ戦線」と称して国際テロ組織アルカーイダに忠誠を誓っていたが、16年に決別して改称した。米国などがテロ組織に指定している。トルコの支援を受ける世俗派武装勢力も反体制派に加わっているとみられる。 シリアでは2011年、「アラブの春」と呼ばれる民主化要求デモが拡大し、アサド政権が弾圧を図ったのを契機に内戦に突入した。政権側は一時劣勢に立たされたが、15年に介入したロシアの支援で16年にアレッポを制圧、優位を固めた。反体制派がアレッポに入ったのは16年以来だ。 内戦は泥沼化し、シリアでは諸勢力が入り乱れて駆け引きを続けている。北西部の空軍基地などには露軍が駐留し、北部国境沿いはトルコが支配。東部には小規模ながら米軍も駐留する。HTSが支配する北西部に加え、北東部一帯は民兵組織を持つ少数民族クルド人の勢力下にある。 英紙デーリー・テレグラフ(電子版)は11月30日、アサド政権はダマスカスと地中海に面する西部は死守するとの見通しを示す一方、不本意ながら政権の継続を黙認してきた米国が政策を転換する可能性もあると分析。勢力再編に結びつく事態に発展するかは、ロシアやイランなどの今後数週間の対応次第だという見方を示した。