撮影から逃げて車の中に閉じこもった―市原隼人が語る未熟だった18歳の自分
大人への一歩は、仕事の“根源”を知ること
――18歳の市原さんが大人へと一歩近づけたきっかけは? 市原隼人: 僕の場合、応援してくださるファンの方々の気持ちに触れたことがきっかけでした。余命宣告をされた方から「隼人くんの作品を見ると頑張れるんです」という手紙をいただいたり、「目の手術が怖いんですけど、あの作品を見て力をもらいました」「学校に行けなくなっていた小学生の子供が、あの作品を見て学校に行けるようになったんです」って言われたりして、涙が止まらなくなって……。 自分の仕事が、ファンの方々がつらさから抜け出すためのヒントになれた。そう感じた時に、主観から一歩引いて俯瞰の位置に立つことができるようになったと思います。役者はなんのために成り立っているのか? 誰に求められていて、何をするべきなのか? 僕は「役者はお客様のためにあるべきなんだ」という事に気づくことができました。こうして役者という職業の“根源”に出会えてから、僕はすごく変わりました。 皆さんもそれぞれいろんな“看板”――いわゆる立場や役割があると思うんですね。仕事にしてもアルバイトにしても、部活や学業にしても。それがなぜ始まって、誰に求められて、何のためにしなければならない事なのかっていうのを一つ一つ紐解いていくと、自分のやるべき事、自分が力を向ける方向がだんだん見えてくるので、迷いがなくなっていくのかなと僕は思います。
成人年齢18歳に引き下げ これから成人になる方々へ
――市原さんは成人年齢が18歳に引き下げられた事について、どのようにお考えですか? 市原隼人: 今一番輝かなきゃいけないのは“若者”だと思うんですね。これからの日本を担っていく方々ですので。自分の進学や就職を親の同意なしで決められたり、住む場所も自分だけで決められたり、少し前には選挙の投票も18歳から出来るようになりましたし。今の時代、これからの日本を担っていく18歳の方々が、自分自身の事、そして日本の方向性を決められる可能性が高まっている事は間違いないと思います。なので、より自分と自分の生まれた国に対しての愛をしっかりと持って生きていただけたら嬉しいです。 ――大人としてどう生きるべきか不安を感じている方もいると思います。市原さんのご自身の経験を踏まえて、アドバイスをするとしたら? 市原隼人: 大人ってなんなんでしょうね。それが分かんないですね僕は。ただ、18歳の方にも、これから18歳になる方にも、とにかく人生を謳歌してほしい。 人それぞれの幸せの形がありますので、これはあくまで僕の場合ですが、僕は「一生懸命目の前のものに必死になってないと生きている意味がない」と思ってしまう人間なんです。僕が職業にしている芝居は、全て嘘っぱちで虚像ですから。だからこそ精一杯芝居と向き合って、見てくださっている方々に嘘をついている申し訳なさを払拭できるように、必死になっているんです。 時にその必死な姿が滑稽であることもたくさんあるんですけど、僕はそこは絶対に恥じない。それは「一生懸命である事」が、僕が見つけた僕なりの人生の謳歌の仕方、楽しみ方だからなんです。ですので、皆さんにもそれぞれの人生の楽しみ方を見つけていただきたいです。 ――18歳当時を振り返って、やり残した事はありますか? 市原隼人: 僕の父は車椅子で生活をしていて、車椅子も自分で動かせなくなってしまったんですね。やっぱり、10代や20代前半の頃は、自分の父親がそんな状態になるなんて思えなかったんです。今振り返ってみると、当時の父親にもっといろいろ昔の話を聞きたかったですね。「お母さんとどうやって出会ったの?」「なんで惚れたの?」「どんな人生生きてきたの?」「どんな悔しいことがあった?」「どんな嬉しいことがあった?」って。それは後悔していますね。 だから成人になるというのをきっかけに、皆さんにもご両親とのコミュニケーションの機会をいっぱい作っていただき、ご両親を本当に大切にしていただきたいです。 ====== 市原隼人 俳優・歌手。1987年生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時に渋谷でスカウトされ芸能界入り。2001年公開映画「リリイ・シュシュのすべて」の主演として俳優デビュー。2004年「ウォーターボーイズ2」でテレビドラマ初主演を果たすと、同年、主演映画「偶然にも最悪な少年」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以来、数々の人気作品に出演。近年は写真家・映像監督としても活動。5月13日には主演映画「劇場版 おいしい給食 卒業」が公開。