食文化の多様性を伝える「なんちゃって日本食」の可能性
2019年、筆者はタイのバンコクでドラゴンロールを食べたが、シンガポールの友人は「すでに80年代に、シンガポールにドラゴンロールがあった」と言う。本格的な江戸前ずしが上陸するのは近年になってからだ。 また、ブラジルにはバナナ、マンゴーなどのフルーツを使った「モンキーロール」があるそうだ。スイーツ系すしは、日本人の発想からは絶対に生まれない。
欧州ラーメン事情
日本の国民食といわれる「ラーメン」。中国伝来の麺料理だが、独自に発展した日本のラーメンは、アジアはもちろん、欧州でも人気が定着している。 2022年秋、ベルギー漫画センターで開催された「NARUTO‐ナルト‐」の特別展示会には、子どもから大人まで幅広い年齢層の観客が訪れていた。 展示会を見に来ていたあるカナダ人は、「ラーメン、スシ、カレー…。日本の食べ物は、アニメで知ることが多いです」と話していた。日本食ブームの背景には間違いなく日本アニメの影響があるようだ。 23年夏、ドイツ・フランクフルトで開催されたコミックマーケットには、「NARUTO‐ナルト‐」の主人公がラッピングされているラーメン販売のキッチンカーに行列ができていた。
フランクフルトでもここ数年、日本のラーメン旋風が吹いている。中でも日本人オーナー・山本真一氏の店「無垢」のラーメンは評判で、新横浜ラーメン博物館に期間限定で「逆輸入」されたほどだ。スープのうま味にこだわった本格派で、日本酒やワインでペアリングするスタイルだ。 だが、「無垢」のように“本場の味”を提供できる店ばかりではない。「見かけは同じでも、ダシに風味がなかったり、スープがやけに甘かったりと、日本とはだいぶ味が違うラーメンがあります。トッピングに唐揚げがのっているときもありますよ」と、現地在住でコミケにも足を運んだ瀬川みどりさん(仮名)は言う。 昨年冬、筆者が訪れたイタリアでは、ローマのテルミニ駅構内のラーメン店で「ギョーザラーメン」を発見した。「Wagamama(わがまま)」という店名に、「あ、日本のラーメン!」とうれしくなったが、慣れ親しんだ定番のセットメニューとは別物だった。 まず、ギョーザは別皿でなく、ラーメンの上にそのままドンとのっている。メニューボードの説明によれば、「ギョーザと焼きチンゲン菜とネギ、パクチーをトッピング。サンバルペーストとしょうゆ、ラー油、ゴマのディップソースを添えて」とのこと。サンバルペーストはマレーシア料理の万能調味料。アジア的ではあるが、「ラーメン」としては、かなりの変化球だ。 同店は1992年に英ロンドンに1号店をオープンし、22カ国で150店を経営するラーメンチェーンだが、イタリア在住の日本人からは、不評のようだ。