住民同士で劇的救命 実例示し初動の大切さ解説 奄美市で救急医療講演会
大島郡医師会(稲源一郎会長)は10日、鹿児島県奄美市名瀬のアマホームPLAZAで2024年度救急医療講演会を開いた。大島地区消防組合龍郷消防分署の森一郎救急係長と、県立大島病院救命救急センターの中村健太郎センター長の2人が講演。事故現場にたまたま居合わせた人々の声掛けが劇的救命につながった実例を示し、「一歩踏み出す勇気」の重要性を解説した。 9月9日の「救急の日」にちなみ、大島郡医師会が毎年開催しているイベント。森救急係長は事故現場に居合わせた人(バイスタンダー)の最初の対応の重要性を指摘。勇気を持って救命活動ができるよう、龍郷町では義務教育課程から救命を学ぶ活動を行っている事例を紹介した。 中村センター長は県立大島病院で2017年から行われてきた臓器移植について講演。「臓器提供は救急医療の先にある。立場によって見え方、考え方が変わる。もしものとき、あなたならどうしたいか。ぜひ家庭で話し合う機会をもって」と呼び掛けた。
「一歩踏み出す勇気を」
「自分がここで話すことで助かる命があったことの実例を知ってもらい、救える命が増えてほしい」。救急医療講演会では、住民同士の劇的救命の実例として紹介された当事者とバイスタンダー(居合わせた人)たちが登壇。当時の思いを振り返り、一般市民が救命に関わることの重要性を語った。 登壇したのは事故の当事者となった嘉川康之さん(54)と現場に居合わせた看護師の久保優紀子さん(61)、救急隊として搬送した前田一さん、中村センター長。 2023年2月、午前8時ごろ、嘉川さんは運転していて心筋梗塞を発症。気を失い車を路肩にぶつける事故を起こした。そこを出勤中の久保さんが発見。車を止めて車中の嘉川さんに声を掛け、数名で車外へ搬出し心臓マッサージを継続して行った。119番通報を受けて現着した前田さんら救急隊員が県立大島病院救命救急センターへ搬送し一命をとりとめた。事故発生からの迅速な初期対応が嘉川さんの社会復帰につながった。 救助に当たった久保さんは「どうしようと思ったが救命しなければと思い駆け付けた」と回想。前田さんは「有効な胸骨圧迫がなされていたため他の活動に取り組めた」と評価した。中村センター長は「生存できても目が覚めない可能性が高かった。久保さんをはじめとした『一歩を踏み出した蘇生活動』が命をつないだ。怖くても救えるならやろうという勇気が大事」と話した。 嘉川さんは「今の自分でも他人にできるかはちゅうちょする。大人になると不安でなかなか一歩が踏み出せない。龍郷町のように子どものうちから救命の教育をし、当たり前に助け合う動きが奄美に広がっていってほしい」と話した。