「自分中心の物語」に酔いしれる「小池百合子」に問う 「東京」への「愛」はあるか(鈴木涼美)【都知事選】
一枚皮を剥がせば
東京の未来を占う
首都決戦に審判の時が近づく中、都民は何を基準にトップを選ぶべきか。重要な争点は2期8年もの長きにわたり君臨した「女帝」が何をなしたか、であろうが、元日経新聞の都政担当記者で作家の鈴木涼美氏が注視するのは「愛」。現職都知事に問う、「この街への愛はあるか」――。 (鈴木涼美/作家・元日経新聞都庁クラブ記者) 「東京の道路整備はまだまだ、ということです!」 最初の見学場所は確か上野動物園で、最後に寄ったのは目下建設作業中という京急蒲田駅付近の連続立体交差事業の現場だった。そこから都庁に戻る頃には日が沈みかけ、ちょうど帰宅ラッシュに差し掛かってしまったせいか、記者十数人を乗せた貸切バスはうんともすんとも動かず、その後予定されていた懇親会の開始時刻は大幅に後ろ倒しとなった。 時は2009年末。私は日経新聞の新米記者として東京都庁記者クラブに配属され、都庁の部署で言えば主に第2庁舎にあたる、都市整備や上下水道、地下鉄や道路の取材をする日々を送っていた。その日は道路や河川、公園の整備を担当する建設局広報が、都政担当記者を相手に事業の進捗報告や現場の紹介をする見学ツアーを企画し、各紙の比較的暇そうな若手記者たちが参加した。 かなり詰め込まれた見学内容と帰りの渋滞でやや疲弊して入った懇親会の会場は第2庁舎の上層階にある大きな会議室で、ツアーには不参加の各紙キャップや建設局の偉い人々がすでにざわざわと喋りながら発泡酒を飲んでいる。ツアー参加者たちが戻ると改めて開会となり、広報からの簡単なお礼に続いて当時の建設局長がマイクを取った。 「道路の渋滞で蒲田から新宿までの帰路は予定の3倍近くの時間がかかったそうで。つまり東京の道路整備はまだまだ、ということです! 今後も皆様の暮らしを良くするための事業へのご理解と応援をよろしくお願いいたします」 大渋滞にへきえきしていた記者たちだったが、このあいさつがなんだかとってもウケて、その場は一気に和やかムードになった。 新型インフルが流行し、東京が五輪招致に失敗したものの、まだ大震災が起こる1年以上前。当然10年後に世界を震わせるパンデミックが起こることなど誰も予想していなかった、そんな年。今より平和だった時代の牧歌的な記者クラブの光景ともいえるが、それでも日夜都庁に詰めて各局を回っていると、この大都市が抱えている課題がけして簡単に解決可能なものではないということはよく分かった。
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「週刊新潮」2024年7月11日号掲載