晩年の松下幸之助、本田宗一郎との出会いで、稲盛和夫氏が確信した経営者のあるべき姿
「心を高める、経営を伸ばす」――稲盛和夫氏のこの寸言を、氏を信奉する経営リーダーの方々で知らないという人はいないでしょう。 【写真提供:稲盛ライブラリー】講話を行う稲盛和夫氏 この言葉は「経営者の人格と企業の業績がパラレルになること」を表現しているというのですが、そうした経営の信念をどうやって得ることができたのでしょうか。誰もが知る先輩経営者との出会いにも触れた稲盛氏の講話をご紹介しましょう。 ※本記事は、稲盛和夫[述]・稲盛ライブラリー[編]『誰にも負けない努力 仕事を伸ばすリーダーシップ』(PHP文庫)の収録内容<2007年9月19日「盛和塾」第15回全国大会での講話の一部>と<1992年4月6日「盛和塾」神戸・播磨合同塾長例会での講話の一部>を抜粋・編集したものです。
規模が大きくなるにつれ、経営の舵取りがうまくできなくなり、会社を潰す人がいる
私は、かねてから「経営はトップの器で決まる」ということを言ってきました。いくら会社を立派にしていこうと思っても、「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」というように、その経営者の人間性、いわば人としての器の大きさにしか企業はならないものなのです。 例えば、小さな企業の経営で成功を収めた経営者が、企業が発展し、その規模が大きくなるにつれて、経営の舵取りがうまくできなくなってしまい、会社を潰してしまうということがあります。それは、組織が大きくなっていくにつれ、その経営者が自分の器を大きくすることができなかったからです。 企業を発展させていこうとするなら、経営の知識やスキルのみならず、経営者としての器、言い換えれば、自分の人間性、哲学、考え方、人格というものを絶えず向上させていくよう、努力をしていくことが求められるのです。 私自身も、決して若い頃から経営トップとしてふさわしい器を備えていたわけではありません。若い頃は未熟な面が多々ありました。しかし、そのことを自分でもよく理解し、少しでも成長できるよう、日々懸命に努力を続けていました。 ある経営者の方からお聞きしたことですが、20年以上も前に私はその方に対して、自分の人生を「理念を高め続ける日々」と話していたそうです。その方は、私が経営の技術を高めるというのではなく、経営にあたる理念、考え方、哲学を高め続ける日々を送っていると話したことに、いたく感動されたとのことでした。 そういえば、私は若いときから哲学や宗教関連の本を枕元に何十冊と積み、夜寝る前に少しでもひもとくよう心がけていました。たとえどんなに遅く帰ったとしても、一頁でも二頁でも頁を繰る。若い頃からそういう日々を送っていたために、「理念を高め続ける日々」と、不遜にも自分の半生を総括したのだろうと思います。 多くの経営者がそのようなことに努めてこられたはずです。例えば松下電器産業(現パナソニック)グループを創業した松下幸之助さん、また本田技研工業を創業した本田宗一郎さんが、まさにそうではなかったかと思います。