「ヴェイロン」が生まれたのは新幹線の車中だった! ブガッティはいかにして「ハイパーカー」の王者となったのか【ブガッティ・ヒストリー_04】
新生ブガッティは矢継ぎ早にコンセプトカーを発表
そして1998年にVWグループがブランドを正式獲得。かつてエットレ時代の本拠地だった仏・モールスハイムに「ブガッティ・オトモビルS.A.S.」社を創立した直後から、ピエヒ博士は迅速な行動に出る。 博士のプランは、アルティオーリ氏の夢にも近いものだった。それは1920~30年代の最盛期に、ブガッティ・ブランドの開祖エットレ・ブガッティが実現した世界観を復活させること。そして、自ら構築した超多気筒エンジンのアイデアから発展し、ビスポークないしは少量製作の超ド級スーパースポーツを製作するというものだった。 1998年、パリ・サロンにて発表された新生ブガッティの第1作「EB118」は、イタルデザイン社との共同開発。アルティオーリ時代に幻のまま終わった「EB112」の基本設計をベースに、W型18気筒エンジンをフロントに搭載し、4輪を駆動する贅沢きわまりない2ドア・クーペとされた。 また翌1999年ジュネーヴ・ショーにはEB118の4ドア版「EB218」。同年のフランクフルトでは初のミッドシップ・スーパーカー「EB18/3シロン」(シロンはエットレ時代にブガッティT35などで大活躍したGPドライバーの名)。そして直後の東京モーターショーでは同じくミッドシップの「EB18/4ヴェイロン」(ヴェイロンはブガッティT57Gで1939年ル・マン24時間に優勝したドライバーの名)と、新生ブガッティは矢継ぎ早にコンセプトカーを発表する。 そして、エットレ時代と同じくモールスハイムに瀟洒な専用ファクトリー「メゾン・ブガッティ」も設立。「市販化は間近である」と力強くアピールしたのだ。
W16クアッドターボで「人類の夢」というべき超高性能を実現
VWグループ傘下のブガッティは、手始めにヴェイロンから市販に移すと発表する。ところが、そこからの道のりは長く厳しいものとなった。 それでも2000年9月のパリ・サロンにて、シリーズ生産を意識した最初のブガッティ・プロトタイプ「EB16.4ヴェイロン」が初公開される。前年に発表された第1次コンセプトカーとの最も大きな違いは、シリンダーの数である。それまでの18気筒に代えて、ピエヒ博士とブガッティ技術陣は16気筒への仕様変更を決定していたのだ。 これは、ピエヒ博士が新たな指針とした「1000ps以上のパワー」と「400km/h以上の最高速度」を達成するためには不可避的な方策だった。これだけのパワーを得るにはターボ過給が必須条件なのだが、そのためには3つのバンクを持つ複雑怪奇なW18ユニットは、レイアウト上および熱対策上でも極めて不利と判断されてしまったのだ。 そこでブガッティ技術陣は、やはりフォルクスワーゲンに端を発する「W8」ユニットを二重化したW型16気筒8Lという、これまた前代未聞のパワーユニットを開発する。 もともとバンク角15度の挟角V型4気筒を、さらに90度のバンク角でV型につないだW型8気筒ユニットは、伝統的なV8エンジンより軽くてコンパクト。それを2基つないだうえに、アルティオーリ時代の「EB110」と同様に4つのターボチャージャーを組み合わせ、1000ps以上のパワーを目指すとされた。 そして、この凄まじいパワープラントにフルタイム4WDのドライブトレインを介して 400km/hを超えるスピードをもたらす。それが、ヴェイロンの揺るぎない目標となった。 ところが、この恐るべき出力と超高速に耐えられる変速機(当初の7速ATから7速DSGに変更)やタイヤ(ミシュランとの共同開発による専用品)などの開発に時間を要したことが主因となって、その正式デビューは幾度となく先送りされてしまったものの、それでも2001年になると、新生ブガッティはヴェイロンの限定生産を行う旨を、ついに明かした。 生産型ヴェイロンEB16.4の8L W16・4ターボエンジンは、1001psのパワーと1250Nmのトルクを発生。406km/hという最高速度に加えて、0-100km/h加速タイムはじつに2.5秒という、まさしく「人類の夢」ともいうべき超高性能を、新しいハイパーカーにもたらすことが発表されたのだ。 生産型のヴェイロン16.4が正式なワールドプレミアに供されたのは、それからさらに4年後となる2005年の東京モーターショーのことだった。
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