現役教師が教える「とっても楽だけどやってはいけない」子育て
今月のおはなし 「恐怖によるコントロール」は教育じゃない
こんにちは、平熱です。 やっほー! みんな元気? わたしはちっとも元気じゃないよ!! 仕事は毎日行きたくないし、行ったそばから帰りたい。でもなんとかやってるプロだから。 で、今回から少しテーマが変わります。ここまでは特別支援学校や特別支援教育のシステムみたいなことについて説明や解説をしてきたけど、今回の4回目から7回目まではわたしが「特別支援学校で働く中で、気をつけていること」について書いていきまーす。 早速ですが 「特別支援学校で子どもと関わるときに気をつけていることはなんですか?」 今まで5万回された質問です。 一言でシンプルに返すと、わたしが最も気を付けていることは「子どもの心身の安全」です。 とりあえず、子どもに関わるときはこれが優先順位の1位だと思っています。 子どもたちの心や体が回復するのがむずかしいほどのダメージを負ってしまうと、それまで積み上げてきたものなんて、はっきり言って台無しです。いや、ほとんど無意味かもしれません。 なにかしらの知識やスキルを身につけてもらうこと、先生やだれかの指示に従うことと、心身を脅かすことがセットになってはいけないんです。 別の言い方をします。 プロの先生になるあなた方は、「子どもたちを恐怖でコントロールしてはいけない」んです。 このことはキャッシュカードの暗証番号とセットで覚えておいてください。 はい、大きな声でー! リピートアフターミー。 「子どもたちを恐怖でコントロールしてはいけない」 今回はこれだけ覚えて帰ってください。 それでは、逆方向から見てみましょう。「心身が脅かされる恐怖」を与えられると、だれだって言うことを聞きやすくなるんです。 考えてみてください。 映画やドラマの悪者が市井の人を従わせようとするとき、どんな手段を取っていますか? 武器をチラつかせ痛みを連想させたり、相手の弱みを突き、尊厳を傷つける言葉を放ったりしてるじゃないですか。『北風と太陽』でいう、北風のスタイルです。 こんなものは教育ではありません。早い話が「脅し」です。 これが許されるんだったら、子どもに言うことを聞いてもらうのは簡単です。常に暴力と暴言を携え、子どもたちを威嚇し、「逆らうと心身が傷つけられる」とすり込ませ、従わせればいいんですから。 だからと言って、「叱らない教育」なんて0か100かの話をしたいんじゃありません。 叱ることも必要です。 ただ、「恐怖でコントロールしていないか」には十分すぎるほど気をつけていきましょう。 恐怖でコントロールされてしまった子どもたちは先生(大人)を「こわいかどうか=心身が脅かされるかどうか」で判断するようになります。こうなってしまうと、子どもたちの指導や支援が常に恐怖を必要としてしまうことになりかねません。 「こわいから言うことを聞く」 「こわくないから言うことなんか聞かない」 これが正しいわけないでしょう。 こうやって「恐怖でコントロールしてはいけない」って書くのは簡単です。ただ、よほど気をつけていないとこの状況は簡単につくり出せてしまいます。 だって楽だから。恐怖でコントロールすることは。細かいこと全部すっ飛ばして、にらんで、大声出して、厳しい口調で子どもと接すれば指示に従ってくれるんだから。 丁寧に動線を考えて、子どものやる気や能力を引き出して、自ら「やりたい!」なんて自発的な方向に仕向けていく太陽のサポートと比べ、北風を吹かせるだけの指導支援は超絶簡単。 素人ならまだしも、プロの仕事じゃありません。 ですが、こうやってえらそうに語るわたしだって、もしかしたら知らぬ間にでも恐怖でコントロールしてしまっている可能性だってあります。とくに体格のいい男性の先生は、悪気なく威圧してるかもしれませんよ。そのくらい取扱注意な案件です。 『北風と太陽』の、太陽を常に狙っていきましょー! やさしくして、やさしくされようね。 それじゃあまた次回! 絶対読んでくれよな!! 平熱(へいねつ) 主に知的障害をもつ子どもたちが通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。やさしくてちょっと笑える特別支援教育のつぶやきが人気を集め、 Xフォロワー数は9.2万人(2024年7月現在)。 小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。「視覚支援」「課題の分解」「スモールステップ」「見えないところを考える」など、発達障害やグレーゾーンの子どもたちだけではなく、全人類に有効な特別支援教育にぞっこん。障害の種類や程度にとらわれず「この子はどんな子?」を大切にし、子どもを恐怖でコントロールする「こわい指導」はしない。「先生も子どももしんどくならない環境」で子ども、関わる大人たちのニーズを満たす働き方を模索中。 著書に『特別支援教育が教えてくれた発達が気になる子の育て方』(かんき出版)、『「ここ塗ってね」と画用紙を指差したわたしの指を丁寧に塗りたくってくれる特別支援学校って最高じゃない?』(飛鳥新社)、『むずかしい毎日に、むつかしい話をしよう。』(東洋館出版社)。 特別支援学校の先生として唯一の目標は、ねほりんぱほりんに出演すること。 *『月刊教員養成セミナー2024年12月号』 「平熱先生の特別支援教育 こんなこと大事にしてます」より 小中学校の通常学級の通う子どものうち、発達障害の可能性のある子どもが8.8%(=35人学級なら3人)いるという昨今。どの校種の先生になっても、特別支援教育は決して他人事ではありません。でも特別支援教育って具体的にどういう支援をするの? 何に気をつければいい? 特別支援学校ではたらく平熱先生に、特別支援教育のあれこれを毎月おはなしいただきます。