トランプの勝利で、米中激突は不可避なのか…?「トランプvs習近平の暗闘史」をプレイバックする
コロナによって勝敗が入れ替わる
なぜトランプ政権は、このような措置に出たのか? ヒントとなるような公聴会が、同年10月23日に、アメリカ連邦議会下院の金融サービス委員会で開かれた。証言に立ったのは、フェイスブック(現メタ)の創業者であるマーク・ザッカーバーグCEOで、こう証言した。 「中国は今後数ヵ月以内に、仮想通貨を立ち上げる。アメリカが座視していると、もはやアメリカの金融リーダーとしての地位は保証されなくなる」 ザッカーバーグCEOは、「デジタル人民元」によって、世界の金融覇権を中国に握られることを危惧したのだった。 2020年、事実上のトランプ政権最終年に入ると、中国湖北省の省都・武漢で新型コロナウイルスのパンデミックが起こった。その後、世界中に蔓延した新型コロナウイルスを巡って、「米中疫病戦争」が勃発。3月16日から、トランプ大統領は新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼び始めたことで、中国は猛反発し、「戦狼外交」(狼のように吠える外交)を強めていった。以後、ワクチン開発を巡っても、米中は熾烈な競争を繰り広げた。 結局、2020年は「社会主義の強制力とスピード力」で、ウイルスの蔓延を食い止めた中国が、G20でほとんど唯一の経済プラス成長(GDP2・3%増)を達成。世界最大の死者数を数えた「敗者」アメリカに対し、「勝者」となった。 ところがその後、中国は2022年の年末まで、悪名高い「ゼロコロナ政策」を続けたことで、2023年以降も経済がV字回復できないでいる。その意味で、中国は「敗者」となった。 他にも、2020年には「米中外交戦争」も勃発した。トランプ政権は7月21日、「知的財産を違法に搾取している」などとして、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖するよう中国に命じた。これを受けて、7月24日に中国も、アメリカの成都総領事館を閉鎖するよう命じた。
「米中新冷戦」のゆくえ
こうして、1期目のトランプ政権では、貿易戦争→技術戦争→人権戦争→金融戦争→疫病戦争→外交戦争へとエスカレートしていった。この一連の動きを「米中新冷戦」と呼ぶ向きもある。 2021年1月20日に発足したジョー・バイデン政権は、トランプ政権のほぼあらゆる政策を否定したが、対中強硬策だけは引き継いだ。「同盟国と連携した理念外交」による中国包囲網を画策したのだった。 そして再び、来年1月20日から、2期目のトランプ政権が到来する。当然ながら、バイデン政権の対中強硬策を引き継ぐことになるだろう。 トランプ氏は大統領キャンペーンの最中、「中国製品に60%の関税を課す」「中国の最恵国待遇を取り消す」などと訴えてきた。ある中国の経済学者の試算によれば、もしこれらの公約がすべて実行されたなら、中国のGDPは最大2%減るという。 現在の中国経済は頗(すこぶ)る悪く、今年第3四半期のGDP成長率は4・6%まで失速した(通年の経済成長目標は5・0%前後)。これがもしも2・6%になれば、習近平政権はかなり動揺するだろう。常日頃公言している「台湾統一」どころではなくなるに違いない。 「米中新冷戦」がこの先、どうなっていくかは五里霧中である。だが、日本を含めた世界中がその影響を受けることだけは確かだ。 (連載第756回) <今週の推薦新刊図書> 中国経済はなぜ崩壊しないのか 柴田聡、塩島晋著 KINZAIバリュー叢書 1500円+税 11月8日、中国政府は総額10兆元(約210兆円)という途方もない額の財政出動を発表した。それだけのテコ入れを必要としているということだが、実際にいまの中国経済はどうなっているのか? 誰もが気になる問いに、正面から平易に答えたのが本書である。財務省きっての中国通の柴田氏は、北京の日本大使館で経済部参事官時代から、「中国経済をバイアスなく客観的に見る」ことを信条にしており、同時期に北京駐在員をしていた私に、いつも適切な示唆を与えてくれた。その精緻な分析力は、新著でますます冴えわたっている。
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)