最古の鳥「始祖鳥」は本当に飛べた? 最新の骨格分析が導いた飛行の可能性
およそ1億5000万年前のジュラ紀後期に生息した始祖鳥(アーケオプテリクス)は進化史上、最も有名な生物のひとつです。しかし現在見つかっている標本数はわずかで、その生態は謎が多く、現生の鳥とは異なるその姿から、始祖鳥はそもそも飛ぶことができたのか、それとも飛ぶことは出来なかったのか、いろいろな説が唱えられてきました。 3月中旬の科学誌に、骨格標本を使った最新分析法を手がかりにして始祖鳥の飛行に迫る新しい研究が発表されました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ----------
化石記録のリミット(限界)
古生物学上、太古の昔に絶滅した種を研究する際、我々の手元にある直接の情報源は「化石」と(それを含む)「岩石」だろう。 特に何千万年、何億年も前に現れた生物の謎に迫る時、研究者はさまざまな困難に遭遇するのが定めだ。現生の生物種との「比較」というアプローチで、研究者はさまざまなデータを手に入れようと試みる。しかしこのやり方にも限界がある。マウンテン・バイクと三輪車のイメージをもとに、トヨタ・プリウスの姿を復元することにかなり無理があるように。 例えば、太古の種が具体的にどのような行動をし、どのような習性をもっていたのだろうか? こうした問いかけに直接答えるには、タイムマシーンを使って、直接生きている個体を観察するしかないだろう。(この特典を得られるのは、今のところドラえもんに直接頼めるのび太君だけのようだ。) 太古の脊椎動物 ── 特に中生代や古生代くらい古い時代のもの ── にとって、骨格の化石がほとんど唯一の情報源になる。しかし当然、骨や歯をもとに動物の行動や習性を探るのは簡単ではない。 例えば、具体的にどれくらい速く歩けたのか? 後ろ脚による二足歩行かそれとも四脚で動き回っていたのか? 獰猛で素早いハンター(捕獲者)だったのか、死体をメインに漁り腐肉によって食生活を保っていたのか? 木を登ることができたのか、または木の上で24時間生活していたのか? 水中を自由に泳ぎ回るだけでなく、海底深くまで潜ることもできたのかどうか? こうした問いかけに答えるのは、古生物学者にとって基本的に非常なチャレンジを要する。 そして、こうした太古の動物の行動や習性は、進化のプロセスを探求する上で鍵となることが多い。例をランダムにあげてみよう。脊椎動物の進化史上、魚の一グループはいつ陸上に進出し四つん這いではい出したのか(後の両生類の祖先へとつながっていったのか)? 中生代の初期哺乳類は子育てを行っていたのか? 剣竜ステゴサウルスはその背中にのった奇妙なプレートを、具体的に何の目的で使っていたのか? 先週、こうした太古に起こったであろう永遠に失われた出来事に思いをはせている時、非常に興味深い研究論文(Dennis等2018)を一つ見かけた。 ―Dennis F. A. E. Voeten, Jorge Cubo, Emmanuel de Margerie, Martin R●per, Vincent Beyrand, Stanislav Bure●, Paul Tafforeau, Sophie Sanchez. 2018. Wing bone geometry reveals active flight in Archaeopteryx. Nature Communications 9 (1) DOI: 10.1038/s41467-018-03296-8 ※ 最古の鳥として知られるジュラ紀後期の「始祖鳥(Archaeopteryx)」をとりあげている。 そして研究のメインテーマは、ずばりこの始祖鳥が「羽をしっかり羽ばたかせて飛ぶことができたのかどうか?」というものだ(非常に興味深い)。ほんのわずかの化石標本しか手元にない(注:現在12点のみ知られている)約1億5000万年前の動物種。その飛行様式など、どうして探ることができるのだろうか? ※R●perの●はoの上に・2つ、Bure●の●はsの上にv