なぜ代表復帰した堂安律は森保監督に突き付けられた“落選ショック”を「今は感謝している」と総括できたのか?
実はオンライン取材を介して、堂安からは以前と異なる雰囲気が伝わってきた。成長を追い求めるギラギラしたオーラではなく、自然体と表現すればいいだろうか。 フローニンゲンからPSVへステップアップした2019-20シーズン。オランダを代表する名門での挑戦に意気込むも、公式戦出場21試合で2ゴールと不本意な結果に終わった理由を自問し、そのた上で弾き出された自己改革が自然体だった。 「PSVでの1年目は、自分のプレーを分析しすぎたというか、こうした方がよかったとあれこれ考えすぎていた。特に悪いシーンを分析すると、同じ状況になったときに悪いイメージが出てしまうので、逆によかったシーンを多く見るようにしました。何も考えずにプレーしているときは楽しい。考えすぎないことが大事かなと思っている」 オンライン取材でこう語った堂安は2020-21シーズンに、自ら望んでアルミニア・ビーレフェルトへ期限付き移籍。ブンデスリーガ1部に昇格したクラブで、ボールを支配される時間が長くなったシーズンを通して強度の高い守備を身につけた。 PSVへ復帰した2021-22シーズンを「ウイングにも守備を求める監督なので、そこが評価されて出場時間を多くもらえたと思う」を振り返った堂安は、公式戦39試合に出場。オランダの名門からドイツの昇格クラブへ移った選択が正しかったと証明した。 さらにシーズンが佳境に差しかかった段階で代表落選を味わわされた。選手ならば誰でも悔しい。複雑な感情を、成長を加速させる発奮材料に変えたからこそツイッターで「逆境大好き人間」とつぶやき、オンライン取材で「今は感謝している」と口にした。 そして、強く脈打つ自然体の精神はいま、再びスタートラインに立った、カタールワールドカップに臨む代表メンバー入り争いへ向けられている。 「ワールドカップは小さなころからの夢なので、どのような舞台なのか想像もつかない。一日一日を頑張ってたどり着けたらいいな、と思っています」 開幕まで半年を切ったカタール大会をこう位置づけた堂安は、6月シリーズから幕を開ける内なる戦いを「サバイバルとは特に意識していない」とし、こう見すえた。 「ワールドカップ前の最後のテストになる試合だとは思っているけど、人のことを考えすぎると自分は調子がよくないので。人のことにあまりとらわれすぎず、自分のプレーに集中します。そのなかで活動が終われば、サバイバルに対しての評価を周りがしてくれる。もちろん競争はウェルカムですけど、自分と誰かを比較することはないですね」 ガンバ大阪から戦いの舞台をヨーロッパへ求めて5年。試行錯誤を繰り返しながらたどり着いた“無我の境地”を武器に、堂安の新たな戦いが幕を開けようとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)