ウクライナ戦争発のフェイクニュースを楽しんだ代償を払わされる韓国【コラム】
[チョン・ウィギルの世界、そして]
21日、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は記者会見中に携帯にかかってきた電話に出た。「弾道ミサイル攻撃報道について絶対言及するな」という相手の音声がマイクを通じて流れ公開された。ウクライナ軍は同日、ロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)で攻撃したと発表した。世界のマスコミが大陸間弾道ミサイル(ICBM)が実戦に使われたのは初めてだとし、ロシアが米国や欧州を威嚇したと大々的に報道した。ザハロワ報道官の電話内容は、ロシアがこれを確認しないことを意図的に表わしたものだった。 翌日、ウラジーミル・プーチン大統領が、ロシアが発射したのは新型中距離ミサイルだと発表し、全世界のマスコミを当惑させた。ウクライナの大統領まで乗り出してロシアによるICBM発射を主張した直後、西側のある当局者は「大袈裟な主張」だと一蹴した。一部メディアがこの当局者の発言を報道したが、大きくは取り上げなかった。結果的に世界のマスコミはウクライナ発「フェイクニュース」に進んで釣られた格好となった。ロシアがウクライナに振り回されるマスコミの不意を突いたのだ。 ウクライナ戦争で「フェイクニュース」が溢れている。特に、北朝鮮軍の派兵が物議を醸してからはさらに深刻だ。 「RBCウクライナ」は24日、「グローバル・ディフェンス・コーポレーション」という軍事専門メディアを引用し、ウクライナが20日に英国の「ストームシャドー」ミサイルでクルスク州を攻撃し、北朝鮮軍500人が死亡したと報道した。ミサイル開発後、おそらく最大の戦果と言えるだろう。 ところが、軍事問題に少しでも関心のある人なら、誰でもこの報道がいかに非現実的であるかに気づくだろう。これが可能になるためには、ミサイルがロシアの防空網を突き破り、北朝鮮軍500人が集まったところに落ちなければならない。または、数百発のミサイルが防空網を潜り抜け、北朝鮮軍兵士が集まっているところをピンポイントで打撃しなければならない。韓国のマスコミはこれを大々的に報道した。記事の最後には根拠や情報源はないと付け加えた。 北朝鮮軍がロシア領土のクルスク州だけでなく、ロシアが占領したウクライナのハルキウとマリウポリでも姿を現したというCNNの報道を、韓国のマスコミはさらに大きく取り上げた。今度はウクライナ当局が乗り出してこの報道を否定した。 米国防総省のサブリナ・シン副報道官は25日、北朝鮮軍500人の死亡や北朝鮮軍のウクライナ領土派兵をいずれも確認できないと述べ、事実上否定した。その一方で、北朝鮮軍については「我々は以前、彼らがその地域(クルスク州)に駐留しており、確かにウクライナ軍と交戦する準備ができていると述べたことがある」と言及するにとどまった。シン副報道官によると、北朝鮮軍は「交戦する準備」状態にあるだけで、まだ戦闘には参加していない。ロイド・オースティン国防長官も23日、「彼ら(クルスク州に駐留しているとみられる約1万人の北朝鮮兵士)が訓練を受け、ロシア編制に統合される方式からして、彼らはまもなく戦闘に関与するものとみられる」と述べた。一方、北朝鮮軍がこれまで戦闘に「積極的に関与」しているという明確な報告は受けていないと語った。 ならば、北朝鮮軍がクルスク州をめぐる戦いに参戦したというこの1カ月間の報道は一体何だったのか。北朝鮮軍は幽霊部隊なのか。韓国国家情報院は20日にも国会で北朝鮮軍1万1千人がクルスクでロシア空輸旅団と海兵隊に配属され、一部は戦闘に参加したと報告した。国家情報院は24日にも「北朝鮮軍に死傷者が発生したという具体的な情報があり、綿密に確認している」と明らかにした。 国家情報院と西側当局者によると、北朝鮮軍は10月初めに派兵され、11月に入ってからクルスク州に配置された。これまであらゆるフェイクニュースが飛び交った。戦闘で負傷した北朝鮮兵士がプーチン大統領を罵る動画、クルスク戦線ではためく北朝鮮の人共旗(北朝鮮の国旗)、逃走するロシアの戦車についていく北朝鮮兵士の動画、北朝鮮軍が食べる犬肉の缶詰やカップラーメンなどが広まった。 ロシアと北朝鮮は派兵を具体的に確認しておらず、両国が最近批准した「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づき、必要な協力を進めると述べるだけで、戦略的な曖昧性を維持している。まるでフェイクニュースを楽しんでいるかのようだ。ところが、そのフェイクニュースに対する費用を払う羽目になったのは(この戦争とは全く関係のない)別の国、韓国だ。 ウクライナのルステム・ウメロフ国防相の特使団が27日、韓国を訪れた。韓国に兵器供与を要請するのが今回の訪韓の目的だ。韓国がこれまでウクライナ発のあらゆる北朝鮮軍派兵関連「フェイクニュース」を楽しんだ費用請求ともいえるかもしれない。米国のドナルド・トランプ次期政権がウクライナ戦争の早期終結を掲げているが、韓国はウクライナに兵器供与を求められるいいカモになっている。 チョン・ウィギル|国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )