「お金持ちだけが介護を受けられる未来」が来てもおかしくない…社会保障費だけではない日本の介護の重大問題
■医療・介護業界からの人材流出が進み、介護サービス難民が発生 いまから十数年後の2040年ごろには、だれの目にも明らかなくらい「人手不足による基本的な社会生活インフラの綻び」が広がってくる。古屋星斗らの著書『「働き手不足1100万人」の衝撃』によれば、その表題にもあるように今後あらゆる分野で人手不足が深刻化し、社会全体で見たときには1100万人もの労働力不足が発生する。数少ない希少な資源となった(若い)人的リソースを、社会のありとあらゆる業界や企業が取り合う、熾烈な争奪戦が繰り広げられることになる。 人手不足にともなうインフレと賃金上昇は加速していくため、制度によって報酬面がおおよそグリップされている医療・介護業界からは人離れが加速することにもなる。もうすでに介護業界からの人材流出の兆しは見えてきている。介護事業者が「人手不足による倒産」に追い込まれるケースが続出してきているが、今後はそうした動きがますます活発になってくる。 むろん、人びとが空前の売り手市場を追い風にして、よりよい仕事を求めて移動することは憲法で保障された自由である以上、止めることはできない。それ自体、市場競争の原理が正常に働いた結果ともいえよう。医療・介護業界はあらゆる業界の労働需要が高まるインフレ局面においては若くて優秀な人材がどんどん失われることは避けられないため、人的リソースを奪い合う時代ではどうしても「負け組」になってしまう。 人的リソースの奪い合いで介護業界が敗北してしまうこと――それを言い換えれば、介護サービスを受けたくても、そもそも提供してくれる人員が確保できないため、サービスからあぶれてしまう「介護サービス難民」が大量発生する時代の到来でもある。 ■介護サービスは「権利」ではなく「サービス」だ 冒頭のニュースに対する反応でとりわけ私が気になったことがある。いま世の中の多くの人は、介護サービスのことをだれもが当たり前に享受できてしかるべき「権利」だと思っている節があることだ。よって「介護をお金持ちしか介護が受けられない可能性」については「権利侵害」の文脈で憤りを感じているように見える。 だがこれは、権利ではなくあくまでサービスだ。 もはやこの国の当たり前の社会インフラのひとつになってしまった介護サービスが受けられなくなるかもしれない未来のことを「深刻な権利侵害だ」と考えたくなる気持ちはわからないではない。だが、繰り返しになるが介護サービスはあくまでサービスだ。エコシステムの循環によって成立するサービスであって、無尽蔵に湧き出る石油やガスと同じではない。財政的ひっ迫と人員的ひっ迫のダブルパンチによってサービスの持続可能性が損なわれれば、どうしたって維持不可能になってしまう。