スムージーが反響 放置柿ビジネスに挑戦の37歳 偶然にも本名が…
秋から冬にかけて東北各地を車で走ると、道端の軒先でよく目にするのが柿の木だ。人が住む気配のない敷地でも毎年実を結んでいるが、「放置されているのでは」と気になる所も少なくない。「これだけたくさんあるのにもったいない」と放置柿の有効活用に乗り出したのが、広島県から秋田県能代市に移住した柿木崇誌さん(37)。新たな挑戦や可能性について尋ねた。【聞き手・工藤哲】 ――取り組みについて教えてください。 ◆32歳で秋田に移り住み、ここで過ごすうちに、あちこちの民家で実を結んだまま傷んでいく柿の実が「もったいない」と気になり始めました。 偶然ですが、私の本名も「かきのき」です。「柿にまつわる仕事をしたら説得力あるよね」と友人に言われたのをきっかけに、2022年秋から軽トラックで依頼者のもとに向かい、柿を収穫し始めました。料金は取らず、代わりに柿をいただき、広島名産のお好み焼きソースの材料やドライフルーツの加工に取り組んできました。 地元でこうした形で活動する人がおらず、手探りでした。もっと知ってもらうため、自身を商品にするイメージで作業服やベレー帽は柿の色にしました。柿は渋さがあり、長く地元に住んできたシニア層に親しまれがちですが、若い世代にも身近に感じてほしいです。 ――収穫して感じることは。 ◆依頼に応じて能代市や大館市、藤里町や三種町などで作業し、年間20件以上対応してきました。木の大きさにもよりますが、1本で約400個、約60キロ余りは収穫できます。樹齢が100年というのもあります。 これほど各地の民家の軒先に柿が植えられる背景には、縁起が良いものと考えられるとともに、歴史的に米作が盛んな秋田で「不作に備えて行政の奨励で植えられた」という説や、各地で盛んに苗が交換・販売され、各家庭で植える習慣が広がったのでは、といった話を耳にしたことがあります。 しかし近年の人口減少で空き家が増えています。空き家や1人暮らしのお年寄りの家に行くと、クマやサル、ハクビシン、カラスに荒らされている木もあります。あるおじいさんと話していたら「昔は子供と一緒に採っていたけどもう都会に出てしまっていないんだよ」と涙ながらに話す人もいました。各地の柿の木は、人口減少の変遷やその影響を表しているようです。 ――2023年はクマが大量出没し、作業が大変だったのでは。 ◆「何とかしてほしい」という依頼の連絡が立て続けに来ました。爆竹を鳴らし、クマよけスプレーを置いて作業し、山の近くは気が気ではありませんでしたが、何とか無傷で乗り切れました。クマが実を求めてやってきて危険が増すとして、自治体の補助で各地で柿の木などの伐採が広がっていますが、関心が高まったことでかえって依頼の数は増えています。 ただ、今後(将来的に)は残念ながら柿の木は減ってしまう傾向にあるので、規格外の野菜や、これまで放置されていた地元の野生の食べ物の有効利用の方法も検討しています。 ――今後の取り組みを教えてください。 ◆秋田県とも協力し、柿の実を酢にして、料理などでもっと活用できないか考えています。また近ごろ人気が出て手応えを感じるのが手作りの「カッキースムージー」(税込み600円)です。 特製のミルクを合わせると甘みがまろやかになり、実1個分に加えてドライ柿もたくさん入るので満腹感があります。いくつかのイベントで売り出したところ「初めて飲んだ」「こんなにおいしいとは」という反響がありました。 柿は加工に手間がかかりますが、まだまだ可能性があります。年間を通した商品提供を目指したいです。 ――秋田に移住した決断をどう振り返りますか。 ◆活動はやりがいがあり、どんどん広がっています。社会の変化で放置柿は今後増えていくでしょう。伐採はされていますが、依頼者も当面は減らないと思います。マーケットは小さくなったとしても、独自性を打ち出すことで存在感や注目度をより高めることができます。 地元の家庭で「秋田には何もない。だから地元から出ていってもいい」という会話があると聞きますが、本当にそうでしょうか。地元の宝や魅力をきちんと祖父母や親が子に伝えていけば、きっと若い人も「面白い」「やりがいがある」と感じるはずです。 地域の人から悩み事を聞きつつ、皮むきなどの作業は地元の福祉施設に委託するようになりました。自治体との協力や講演会、柿の魅力を伝える収穫体験イベントにも活動を広げています。できることはまだまだあります。 ◇かきのき・たかし 広島県出身。元高校球児。10年ほど日本全国を旅し、その間に出会った能代市出身の女性と結婚して秋田に移住した。元々は柿がそれほど好きではなかったが、活動を通じて大好きになった。放置柿や柿キッチンカーに関する相談は、電話(080・7065・9096)、メールkakkinoki@gmail.comへ。