ソニーグループはなぜ、プレステ事業で「遊んだ回数」を重視するのか?販売目標で見失う事業の本質
なぜ、企業は「売上目標」にとらわれるのか。計画には目標が必要だが、いまや売上目標が多くの企業で成長を妨げる弊害となっている。 売上目標は会社から与えられたもので、組織と従業員の思考能力を奪う。自己満足に陥りやすく、市場環境の変化への対応力も損なう。 連載1回目は、家庭用ゲーム機「プレイステーション」シリーズを手がけるソニーグループを取り上げる。プレステはなぜ、重視する目標設定を「販売台数」から「ユーザーがプレイした回数」に変えたのか。 (*)本稿は『売上目標を捨てよう』(青嶋 稔、インターナショナル新書) の一部を抜粋・再編集したものです。 【図】PS4とPS5に見るユーザーのゲームプレイ度合い ソニーグループには、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)がある。これは自社の在り方を明確にしたものだ。多様な事業に関わる11万人の全社員が同じ長期視点を持ち、価値を創出するためのものとして2019年に策定された。 同時にバリュー(価値観)も策定され、「Purpose&Values」として認知されている。これらは、「ソニーグループとして何を目指しているのか」「何のために存在しているのか」について共通認識を醸成することにより、“人の心を動かす”こと、そしてあらゆる事業の中心にあるのは“ひと”であることを明文化したのである。 ソニーグループはこの「Purpose&Values」に基づいて、それぞれの事業がどのような価値を創造するのかを策定し、外部に開示をしている。
■ 販売台数でなく、月間プレイ時間、アクティブユーザー数で目標設定 例えば現在、主力事業であるゲーム&ネットワークサービス事業においては、事業のありたい姿を、「To Be “The Best Place to Play”『最高の遊び場』を実現する」とし、創出価値を、(1)感動体験で人の心を豊かにする、(2)クリエイターの夢の実現を支える、としている(図表5)。 このゲーム&ネットワークサービス事業を担うソニー・インタラクティブエンタテインメントを事例に、ソニーグループがどのような目標をもって事業を展開しているか紹介したい。 過去、ゲーム&ネットワークサービス事業では「プレイステーションの販売台数」を目標として設定していた。だが同社が目指すのは、「感動体験で人の心を豊かにする」ことだ。これを遂行していくためには、より顧客体験に軸足を置いた目標設定をすべきである。 そこで同社では、目標を販売台数ではなく、ユーザーあたり月間プレイ時間、ゲームプレイDAU/MAU(%)などに変更した。DAUとは、1日のアクティブユーザー数、MAUとは月間のアクティブユーザー数である。つまり、購入してもらった台数ではなく、購入してくれたユーザーがどれだけアクティブなユーザーとなっており、どれくらいの時間、プレイステーションで遊んでいるのかを数字で追いかけ続けることにしたのだ(図表6)。