ソニーグループはなぜ、プレステ事業で「遊んだ回数」を重視するのか?販売目標で見失う事業の本質
■ 顧客体験の高度化×継続的収益=リカーリングモデルで高収益 顧客体験を高めながら継続的に収益を得るビジネスモデルをリカーリングモデルというが、ソニーグループは、全社でリカーリングモデルへ事業転換を進め、収益を大きく伸ばしている。 実際に、ソニーグループのゲーム&ネットワークサービス分野の売上と利益の変遷を見てみよう。02年にBBユニットという外付けネットワークユニットを発売し、06年にはプレイステーション3を発売、ネットワーク機能を標準搭載とした。10年には「PlayStation Plus」というサブスクリプションサービスを開始し、15年から17年の中期経営計画において、リカーリングモデル事業の強化戦略を発表した。 リカーリングモデルに大きく戦略転換をした結果、21年度のゲーム&ネットワークサービス分野の売上は、約2兆7400億円、営業利益は約3460億円。売上に対する営業利益率12.6%の高収益事業となった。 ソニーグループの事例は、販売台数という売上を追うのではなく、顧客体験を高めていくことが、企業収益をも大きく高めることを実証している。
■ 顧客にとっての「成功」とは何かを考えよ 売上目標とは、会社からのブレークダウンであり、与えられたものである。そのため、「なぜこの目標なのか?」という主体的な問いも、主体的な理由もない。与えられた目標を実行するのみとなり、組織の考える力は落ちる。管理職の思考力低下は、顕著であり、与えられた目標を伝達し、実行を促すので、組織は活性化しない。また、自社中心思考に陥りやすく、顧客や市場環境の変化が見えなくなってしまう。 内部でも、組織内の個人個人が見えなくなってしまい、営業担当者が顧客をどのように洞察しているのかが把握できなくなる。その結果、組織全体のモチベーションも落ちる。 これを抜本的に改めることが必要であり、提案したいのは、売上目標ではなく「顧客の成功」を考えるということである。 ソニーグループは「Purpose&Values」に基づき「感動体験で人の心を豊かにする」ことに軸足を移し、従来の販売台数目標を捨てた。 この転換により、社内の風土も大きく転換していったという。より人に近づくことで、顧客とともに学ぶ組織へと変わっていったのだ。 顧客の成功を実現するということは、顧客理解がなければできない。何が顧客の理想状態なのか、それを知らなければならない。そのためには、「顧客理解ができていない」こと自体を直視しなければならない。 顧客や市場の変化を捉えた上で、何が顧客の理想状態かを理解し、その実現、顧客の成功に向けて全社横断で取り組むところから、すべては始まる。
青嶋 稔