与党に極大な貸しを作り、野党にも賛同できる…国民民主党「自公連立入り拒否」の打ち手がなぜうまいと言えるか?
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者) ■ 令和の「宙吊り議会」は何をもたらすか 【図表】103万円「年収の壁」のイメージ。国民民主党の主張を自公は飲み込むか? 第50回衆議院議員総選挙が終わった。 結果は既知のとおりだが、投票率は2014年、2017年に次いで戦後3番目に低い53.85%。2012年の第2次安倍政権以後繰り返されてきた低投票率のなか、自公連立で相対的に高い得票率を得て勝ち切る必勝パターンがとうとう崩れ、自公で過半数割れ。 比例票を自民党は500万票以上、公明党も100万票以上減らし、少数政党は大きく得票を伸ばし、議席を獲得するに至った。 今月半ばにも投開票日から30日以内に開催することになっている特別国会で首班指名選挙が開かれるが、自公で過半数を割ったことから札を開けきるや否や与野党の交渉が始まっている。2012年の安倍政権から国政選挙の基調となってきたかたちが大きく揺らいでいる。 与党が過半数割れを起こすのは93年の第40回衆議院総選挙以来のことで、この選挙を経て非自民・非共産8会派連立政権としての細川政権が誕生する。 昭和の「宙吊り議会」(hung parliament)は、自民党誕生後初めての政権交代に繋がり、圧倒的に強い自民党と中規模な社会党などが対立するいわゆる55年体制の終焉につながった。 令和のそれはいったい何をもたらすだろうか。
■ 合理的な振る舞いを見せる国民民主党 選挙戦終盤や投開票日直後には政権交代への期待感もあったが、眼下の政権交代の可能性はそうそうに相当小さくなった。 今回、前回7から28まで議席を伸ばした国民民主党が極めて合理的な振る舞いを見せていることに起因する。 国民民主党は今回比例で候補者が足りなくなり、3議席を他党に譲る大躍進を見せた。その後も次々にキャスティング・ボートを握る自らの役割を踏まえつつ、同時におそらくは来年の参院選やその先にある政権交代が現実味を帯びる「次の総選挙」が脳裏にあるのだろう。 目先の新しい支持者だけではなく古参支持層の目も意識した打ち手が目を引く。 国民民主党は30日に役員会を開いて、首班指名選挙では玉木代表の名前を書くことを決めた。 ◎国民 首相指名選挙 決選投票含め玉木代表投票方針で了承 | NHK 首班指名選挙は自民党総裁選挙と似ている。衆議院規則によって、記名投票であることや、過半数獲得者が出た場合にはその者を、出なければ上位2名による決戦投票を行う(あまり紹介されていないが、決選投票で同数の場合にはくじ引きで決める)。 第二章 内閣総理大臣の指名 第十八条 内閣総理大臣の指名については、記名投票で指名される者を定める。 2 投票の過半数を得た者を指名される者とし、その者について指名の議決があつたものとする。 3 投票の過半数を得た者がないときは、第八条第二項の規定を準用して指名される者を定め、その者について指名の議決があつたものとする。 4 議院は、投票によらないで、動議その他の方法により、指名することができる。(衆議院「衆議院規則」より引用) 28人の衆議院議員を擁する国民民主党は、首班指名選挙で玉木代表の名前を書くことが意味することは何か。 あわせて国民民主党が連立入りを拒否していること、与党と幹事長、国対委員長を交えた政策協議を開始しながら、立憲からの代表協議の打診を拒否したことなどをあわせて考えてみることが重要になってくる。