「可愛くて胸の大きな」女性店員を勝手に撮影してSNSに投稿した男を待っていた復讐劇…「うまくいかない現実」に翼を与える柚木麻子の作品(レビュー)
■深い傷を負った者たちが手を取り合って…
さぁ、ここからが現代作家界のジャンヌダルク、柚木麻子の真骨頂だ。ただ泣き寝入りするわけもなく、やばいくらいエキサイティングな復讐編が始まるのである。冒頭で述べたように、ごめんなさいで済むなら小説はいらない。そこまでやるかよ! と佐橋がドン引くほど時間と手間と情熱をかけて、佐橋をとっちめる。彼の謝罪が、ゴングだったのだ。ただその時のために、彼によって傷付けられた被害者たちは手を取り合い、傷を抱えながら行動してきたのだ。そうすることで、生きる力を取り戻していったとも言える。 柚木麻子の小説は、ザ・エンタメだ。現実はそんなにうまくいかない。しかし、そんなことをわかりきったうえでも、プシッと開けたてのエナジードリンクを一気飲みして、翼を得たような気持ちにさせてくれる。たったそれだけで、我が人生をエンタメにすることだって可能な気がするのだ。 どんな絶望的状況におかれても、柚木麻子の小説だったら、この後どうやってエンディングに向かわせるだろう。そう考えれば、自ずと力が湧いてくる。あ~だから柚木麻子はやめられねぇ! とりあえずラーメンを食べてから、残りの5作を読もう。なんとエナドリ6本セットです。なんてお得で最強な短編集か。 [レビュアー]新井見枝香(元書店員、エッセイスト、踊り子) あらい・みえか 協力:新潮社 新潮社 Book Bang編集部 新潮社
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