池松壮亮 × 三吉彩花 インタビュー 仮想現実に理想の母親の夢をも見る『本心』 すぐそこにある未来の俳優たち
――劇中、おふたりがVRゴーグルをつけてAIの母と対話するシーンがありますよね。実際に演じられて、どのような感覚を得ましたか? 池松 本作ではVRの対比として「禅」を取り入れていますが、それに近い感覚で、非常に自分に向いている行為のようにも感じました。AIもそうですが、つまるところは人間の欲望の歴史だと思います。自分だって脳内で何回も亡くなった大切な人を蘇らせています。目の前に蘇った母が出現するシーンに関してはあまりに純粋な喜びと、それが本物の母ではない自分が創ったものというあまりに複雑な感情で心が震えるようでした。そうしたこれからの人間の欲望や哀しみに触れるような体験でした。 三吉 本作は三好にとって「人に触れられない」状態から一歩踏み出していくさまを描いた作品でもあり、私自身も自分の本心と向き合い、撮影期間中ずっと自己探求を続けながら臨んでいました。そうした意味では、いま池松さんがおっしゃったように、想像の中の世界で三好として演じてはいますが、すごく自分に向かっていたように思います。一方で、セリフの言い方や動作一つにしても繊細に意味が含まれてしまうように感じて、VRゴーグルをつけるシーンではより感覚を研ぎ澄ませていました。 ――身体性や肉体性は、リアル・アバターほか本作の大きなテーマの一つでもありますね。 池松 撮影は2023年でしたが、僕にはまだ実存する肉体があり、自分の手で世界に触れていくことができます。ただこの先、テクノロジーの進化によって人間が肉体を手放していく可能性も否定できません。そうした長い歴史の現在地にある人間という生きものの記録を今作に閉じ込めるべく、テクノロジーの対比として、生身の身体から生まれる感情の余白でスクリーンをいっぱいに埋めていくことを目指したいと思っていました。朔也として、残された自身の身体にすがりながら生きることを選択しているような感覚がありました。 ――自分自身、『A.I.』や『her/世界でひとつの彼女』のような映画を観ていくなかでこれからのテクノロジーや未来について学んできたのですが、おふたりはいかがですか? 三吉:私は『本心』の前に『レディ・プレイヤー1』を見返しました。あの作品はもっとファンタジー色が強く、仮想空間上のゲームで競い合って‥‥というものですが、経済格差や上下関係を描いてもいて、仮想空間のなかでの喜びや虚しさとどんどんかけ離れていく自分自身の本心であったり、アバターを通してでなく実物に会いたいと思う部分がリンクするようにも感じます。 ちなみに、私が普段観ている映画はアクション映画が多いです。そして、女性がカッコよく自立している作品。ヒーローでもダークヒーローでも、魅力的な女性がドンと立っている作品は観てしまいます。元々はクリステン・スチュワートが大好きで、『チャーリーズ・エンジェル』はお気に入りの一つです。そのほか、衝撃的すぎてものすごく強い女性に見えたのが『ミッドサマー』のフローレンス・ピューです。レイトショーで一人で観に行き、後味が悪すぎてどうしようと思ったほどでしたが、フローレンスの演技力もあって、奇妙な世界観の中で彼女がどんどん変化していく姿が強烈に印象に残りました。 池松 AIを描いた映画として近年最も記憶に残っていたのは『her/世界でひとつの彼女』です。いまから10年前に「AIが恋人になる」を描いた点で画期的でしたが、そこから時が経ち生命の根源的な存在にあたる“母”を“蘇らせる”ところまで来たというのは時代の流れとしても興味深く、その意味でも今作の描いていることは凄いなと感じます。 AIや近未来というものに関しては自分も題材としてとても興味があった、探していたような感覚があります。人間を見つめる上で、過去や未来を通っていまを語ることは映画や物語にできる特別な表現だと思っています。