【ベトナム】三菱地所、越投資5億ドルに 南北10物件、協業戦略が奏功
三菱地所がベトナムでの投資を加速している。当局による不動産開発の許認可手続きの遅れが全国的に深刻化する中で、今年に入り大型マンションと物流施設の計4件のプロジェクトに着手した。複合企業ビングループやシンガポール政府系不動産大手キャピタランドなど経験豊富な開発会社が主導する住宅プロジェクトに一部出資する戦略が奏功し、ベトナムでの投資資産残高は10物件近くで約5億米ドル(約770億円)に達した。 三菱地所が今年着手したプロジェクトは、マンションが首都ハノイ市西部ナムトゥーリエム区の「ルミ・ハノイ」(約3,950戸)と、市東部ザーラム郡「ビンホームズ・オーシャンパーク1」内にある「ザ・セニーク・ハノイ」(約2,150戸)の2件。物流施設は南部ロンアン省ナムトゥアン工業団地の「ロジクロス・ナムトゥアン」(延べ床面積6万4,500平方メートル)と、ハイフォン市ディンブー・カットハイ経済区の「ロジクロス・ハイフォン」(同8万8,300平方メートル)の2件だ。 ■初回販売会で92%が予約 ルミ・ハノイは今年第1四半期(1~3月)に地下工事が始まったばかりだが既に99%が成約済み。セニークは11月の初回販売イベントで92%に予約が入った。 いずれも1戸当たり3,000万~4,000万円相当する高級物件が中心で、ルミは2ベッドルームが50~75平方メートル程度、3ベッドルームは80~140平方メートル程度、セニークはそれぞれ50~80平方メートル程度、80~100平方メートル程度。ここ数年のベトナムで主流のマンションよりも一回り広い間取りで、違いを求める中間層以上のニーズを捉え「非常に好調」(現地法人三菱地所ベトナムの加賀本崇至社長)な売れ行きとなっている。 ロンアン省の物流施設は南部ホーチミン市中心部まで約20キロメートルの近郊にあり、電子商取引(EC)の発展で急拡大する小口貨物の需要を取り込む。ハイフォンの施設は、中国からの工場移転で北部一帯で集積が進む製造業による北米などへの輸出貨物の保管スペースとしての利用を見込む。どちらも物流会社を中心に賃借の引き合いが相次いでいるという。 キャピタランドが主導する2件のマンション開発は完売すれば総売上高は16億シンガポールドル(約1,790億円)を見込み、物流施設2件への総投資額は約135億円を予定する。 ベトナムでは不動産開発に絡む汚職の取り締まり強化を受けて許認可手続きの遅延が深刻化している。三菱地所が短期間で相次ぎ投資できているのは、開発を自ら主導する「メジャー出資」と有力パートナーが主導するプロジェクトに参画する「マイナー出資」を使い分けているためだ。 マンション2件はキャピタランドがいずれも主導し、ルミ・ハノイはシンガポールの不動産開発大手ファー・イースト・オーガニゼーションと、ザ・セニーク・ハノイは野村不動産とともに一部出資する。 キャピタランドはベトナムで30年以上の経験があり許認可取得のノウハウがある。ルミとセニークはどちらもビングループ傘下の住宅開発最大手ビンホームズが保有していた用地にあり、同社が譲渡後も許認可の手続きを支援した。加賀本氏は「主導する企業の顔ぶれを見て『進むプロジェクト』」と判断したという。 一方で、物流施設の2件は単独開発だ。いずれも工業団地のデベロッパーが許認可手続きをお膳立てしてくれる。100%出資とすることで、日本で20件以上の実績がある「ロジクロス」ブランドを海外で初めて展開する。非常用発電機の設置や環境・省エネ認証の取得、ドライバー向けの休憩室の完備など日本流の施設運営を図る。 ■人口流入で住宅需要拡大 三菱地所ベトナムは2019年設立。当初はより大きなリターンが見込めるメジャー出資を志向したが、「新興国の中でも特に許認可手続きが動きにくい」ベトナムの壁に直面し、事業が停滞した。22年に着任した加賀本氏が住宅案件ではマイナー出資を進める方針に切り替えたことで、投資の幅が広がった。未公表も含めるとベトナムでの投資資産残高は約5億米ドルに積み上がった。 現在は住宅やオフィス、商業、ホテル物件については50%以下の出資比率で、物流施設はメジャー出資も含めた1件当たり最大5,000万米ドル程度のプロジェクトの発掘に注力する。 都市部への人口流入や核家族化が進むベトナムでは、今後も住宅需要は大きい。加賀本氏は「今後も(許認可手続きなどが)『動くプロジェクト』に投資していく」と述べ、有力デベロッパーとの協業での住宅開発や、許認可の取得が比較的容易な工業団地の物流施設建設などを継続的に進める考えを明らかにした。