社説:多様性社会 自分らしく生きられる国へ
連休の取りやすかった暦を生かし、家族や地域のつながりを見つめ直した人も多いだろう。 そうした身近な絆や関わりを巡り、社会環境や価値観が変化する中、この国がどう向き合うのか問われている。 にぎわう訪日観光に加え、コンビニや飲食店、工場、介護現場の担い手、地域の生活者として外国人の存在は大きくなっている。 出入国在留管理庁によると、在留外国人は昨年6月末で約359万人だった。京都府は約8万人、滋賀県は約4万人が暮らす。国立社会保障・人口問題研究所は今後、全国で毎年16万人ずつ増えていくと推計する。 少子高齢化で人口が減り続ける中、政府は「外国人材の受け入れ拡大」を掲げる。劣悪な労働環境などを指摘されてきた技能実習に代えて、職場を変える「転籍」を一定認める新制度「育成就労」を2027年度に設け、特定技能とつないで長期滞在に道を開いた。 その一方で、入管法改正によって、永住資格を税滞納などで取り消せるとした。いまだに「安価な労働力」として外国人を便利使いする意図が透ける。 家族へのサポートも十分とはいえない。特に子どもたちの教育への支援は不可欠だ。高校卒業後の進路は日本人に比べ、非正規労働への就職が格段に高く、大学の進学率も低い。 外国人への偏見や差別的な言説はあふれている。互いの文化、価値観を理解し合うには、地域や職場で交流を重ねていくしかない。 激化しつつある人手獲得の国際競争の中で、日本が選ばれる国になれるのか。人々が安心して暮らせる環境が必要だ。 「自分らしく生きる」という多様性の波は、迫っている。 LGBTQなど性的少数者への理解の促進も欠かせない。 全国で起こされている同性婚訴訟は昨年、3例の「違憲」判決が出された。特に福岡高裁は初めて憲法13条違反の判断を示し、幸福追求権の侵害を指摘。自治体で進むパートナーシップ制度の拡充などでは不平等なままだとし、異性婚と同様の婚姻制度を認めるべきと言及した。 早期の立法措置を促された国会は、切実な声にこたえなければならない。 夫婦同一姓を強いる制度の見直しは不可避である。国連女性差別撤廃委員会は、希望すれば結婚前の名字を名乗れる「選択的夫婦別姓」の導入を勧告した。各種世論調査や経団連の提言をみても、すでに理解が進み、決断の機は熟している。 自民党以外の大半は賛成しており、少数与党の国会で議論を前へ進めるべき年だ。 多様な考えを認め合い、補い合ってこそ成熟した共生社会は実現する。国民一人一人にもボールは投げられている。