“いい音”って数値化できるの? イヤホンのスペックの読み方
最大入力
イヤホンにどれだけの電流を突っ込めるかをmW(ミリワット)単位で表したスペックです。この数値が低ければ、大音量にしようとボリュームを上げると、ドライバーが飛んでしまって壊れちゃうわけですが、イマドキの製品であればほぼそんな心配はないので、あまり気にしなくてもいいでしょう。あえて言うとすれば、この数値が大きい方が、大音量で再生しても歪みが起こりにくいです(しかし歪むくらい大音量のイヤホンで聴いてたら、すぐに耳がやられちゃうでしょうが)。
インピーダンス
電気抵抗の大きさを表す数値です。「抵抗」ということは、入ってきた電気信号をできるだけ流さないようにするということ。インピーダンスの数値が大きくなれば、それだけ電流は流れにくくなり、イヤホンの再生音量は小さくなります。 なんでわざわざそんな邪魔くさいことをするかというと、これはノイズ対策のフィルター的な側面が大きいです。抵抗を大きくすることで、ノイズ成分を多く取り除くことが可能になります。小さくなってしまった本来の信号は、能率の良いドライバーを介することで大きく鳴らすって感じです。 インピーダンスはΩ(オーム)という単位で表されますが、一般的なコンシューマー向けイヤホンだと16Ω~32Ωくらいの製品が多いです。一方で室内リスニングを前提とした高額なハイファイヘッドホンだと、数百Ωなどという製品もあります。それだけノイズが低減されるわけですが、そのまま鳴らしても音量が小さすぎるケースもあります。そのために十分な電流に増幅するためのヘッドホンアンプという機器を併用したりします。 非常にざっくりした感じではありますが、この辺はイヤホン&ヘッドホンの基礎知識です。ただ前述のように、こうしたスペックの優劣だけで音の良し悪しが決まらないのが、オーディオの面白いところ。コンシューマー向けのイヤホンはメーカーによって「味付け」の個性が強く、それが自分の好みに合致しているかがポイントになります。 特に最近の低価格イヤホンは、ボーカルの帯域再生にぐっとクローズアップしているものが目立ち、歌の臨場感や生々しさは感じ取れるんだけど、楽曲全体の馬力感やダイナミズムがイマイチってこともままあります。私は個人的にそれだとキビシイのですが、よく聴く音楽ジャンルの傾向次第では、そういう音が好きだって人もいるでしょう。要は好みの問題なので、量販店などで試聴させてもらうのが重要ですね。着け心地も音質同様に大事なファクターですし。 余談ですがApple(アップル)のAirPodsは、こうした周波数帯域などのオーディオスペックを一切公表していません。ちゃんといい音鳴るんだから使ってみてくれって自信の表れだと思います。数値を気にしすぎても意味がないってことでしょう。 イヤホンが提供する没入感は、音楽のフォーマットすら変えつつあって、実際にイヤホンで聴かれることを前提としたようなミキシングを施した楽曲も目立ちます。 でも、できれば、たまにでいいから、イヤホンでなくスピーカーから鳴らした音も体験してみてほしいです。スピーカーじゃないと表現できない立体感、音本来の魅力である全身で感じる空気の振動やボディソニックって、やっぱり何ものにも代え難いですからね。
巽英俊