日本サッカーの弱みは「チャレンジ」か。バレージがプレーで語る"世界標準"と、ピクシーのゴラッソから学ぶ技術と判断の関係
試合を決めるゴールに、勝敗の行方を左右するプレー。記憶に残るシーンが生まれた背景には、選手たちの卓越した状況判断があった。取材歴30年のサッカージャーナリストが、状況判断に優れたシーンを振り返り、彼らが持つ共通点を綴った特別コラムを3回に分けて公開する。 この回では、イタリアの"バック4"統率者・バレージと、「ピクシー」で馴染みも深いストイコビッチのプレーシーンをメインに、判断と技術が際立ったシーンを解説する。 (引用:『サッカークリニック 2024年12月号』【特集】図解つき!サッカーの優れた状況判断PART4:特別コラム 状況判断に優れたフットボーラーたちより) 文/北條聡(サッカージャーナリスト) 【1990年 イタリア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦/ユーゴスラビア対スペイン】78分:ストイコビッチがブヨビッチ(ともにユーゴスラビア)の左クロスを巧みにトラップし、ゴール左に流し込んだ場面(Photo:Getty Images)
|一連の判断と技術が際立ったバレージとストイコビッチ
決めごと(チーム戦術)と個々の判断との関係において、常に思い出すのがフランコ・バレージだ。1980年代後半から90年代半ばにかけて、イタリア代表とACミラン(イタリア)で活躍した名リベロである。 名将アリゴ・サッキが考案し、フットボールの歴史を一変させた《ゾーナル・プレッシング》という革新的な戦術のキーパーソンでもあった。意外にも当初は出来の悪い劣等生だったという。 やがて鉄壁を誇ったバック4の統率者となり、その名を歴史に刻むことになる。サッキのミランでは、相手のアタッカーが中央でドリブルを仕掛けてきた場合、最終ラインの4人は後退し、シュートレンジに入ってきたら、一斉に取り囲む決まりになっていた。 もっとも、いつ取り囲むのか、そのタイミングは難しい。そもそもシュートレンジは「ここ」と定まっているわけではないからだ。ボックスの手前という説もあったが、それとて取り囲むタイミングは難しい。最終的には個々の判断に委ねられる。 そこで常に先陣を切り、目の前のアタッカーに襲いかかったのがバレージだった。残る3人がこれに続いて一斉に取り囲み、危機を回避したわけだ。 この《後退→停止→強襲》という一連の判断と技術が際立ったと言えば、94年アメリカ・ワールドカップの決勝だろう。鋭いドリブルで一気にゴールに迫るブラジルのエース、ロマーリオの単騎突破を阻んだシーンは語り草だ。後退→停止から、スッと右足を伸ばしてボールをひっかける技術と判断は実に見事なものだった(図1)。