「睡眠は本当に必要なのか…?」眠るのが嫌いだった高校生が徹夜で試験に臨んだ結果
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】考えたことがない、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)
ゆりかご効果と睡眠不足
朝の通勤時間帯、電車に乗り込むと、座席に座ってうたた寝をしている人を見かける。電車や車に乗ると、気づかないうちに眠ってしまうという人も多いと思う。それはなぜなのだろう。時間を持て余してしまうからだろうか? じつは、きちんと科学的な理由がある。赤ん坊をあやすとき、抱きかかえて優しく揺らすと、リラックスして眠ってくれたりする。ゆりかごも、また同じ理屈だ。そうした適度な揺れを心地良く感じるのは、赤ん坊だけではない。大人も、適度に揺れている環境では眠りにつきやすく、安眠することができ、それは「ゆりかご効果」と呼ばれている。電車や車は、ちょうどよく揺れる。車内でうたた寝をするのは、「ゆりかご効果」のせいであり、仕方のないことなのだ。 しかし、朝の通勤時間帯に眠りに落ちてしまうのは、また違う理由がある気がする。元気はつらつとして眠気がない状態ならば、「ゆりかご効果」があっても眠くはならないかもしれない。起床してそれほど時間が経っていない通勤の時間に、眠気を感じるのは、睡眠が不足していることが関係していそうだ。 経済協力開発機構(OECD)が2021年に公開した、各国の平均睡眠時間の調査結果によると、33ヵ国のうち、日本の平均睡眠時間は最短だった(7時間22分)。日本では、例えば都心に職場がある人が、郊外に住まいをもっていて、長い時間をかけて通勤している場合も多い。睡眠に費やせる時間は、必然的に短くなりがちだ。日本のビジネスパーソンは、通勤電車で不足した睡眠を補っているのかもしれない。言い換えれば、人間はどんなに忙しくても、ちょっとした隙間時間で眠ろうとする。 そういえば私は幼い頃、あまりに当たり前なことに疑問を抱いていたのを思い出した。眠るのが嫌いだった私は、「睡眠は本当に必要なのか」と疑問に思っていた。夜になるといつも考えていたことがある。もしこのまま眠らずに起き続けたらどうなるのだろう──。