GPIFが主導する運用機関のエンゲージメント活動は、証券市場の質的向上に貢献しているか?
三井住友トラスト・アセットマネジメントは、12のESGテーマをリスクと機会の観点で分析し、課題設定を行った上で、各ESGテーマのゴール(長期目標)からバックキャストによる6段階のマイルストーンを設定し、ターゲット(中期目標)達成をめざしてエンゲージメントを実施し、このエンゲージメント進捗状況を定期的にGPIFに報告している。既にESG全てのテーマで多くの企業がステップ4(経営層と課題認識を共有)に前進し、S(社会)とG(ガバナンス)に課題では、ステップ5(施策実行)、ステップ6(課題解決)に進んでいる企業も増えている。
りそなアセットマネジメントは、インハウスのAI技術を活用し、統合報告書を分析する着眼点を評価項目として設定し、スコア化することで課題の所在を明確にしている。企業ごとに企業価値向上に向けたマイルストーンを設定し、課題設定から課題解決までのエンゲージメントの進捗状況を定期的にGPIFに報告している。企業とのエンゲージメントの際には、定量スコアにエンゲージメント・マネジャーのコメントを付与した資料を提供して意見交換を行うようにしている。エンゲージメント対象企業の統合報告書の内容の改善(質的向上)は、対象企業のAIスコアの平均値が上昇しており、全般的に進んでいることが確認できる。
このようにエンゲージメント強化型パッシブに取り組む運用会社では、それぞれに特徴的なエンゲージメント活動を実施しているが、その他の運用委託先運用機関においても、それぞれの観点によるエンゲージメント活動を実施している。GPIFでは、これらの取り組みが「リスク調整後のリターンを改善する効果があるのか」について効果測定を実施する計画だ。2023年度には「エンゲージメントの効果検証」と「企業価値・投資収益向上に資するESG要素の研究」について分析を行っている。エンゲージメントの結果が、ESG指標や企業価値向上に影響を与えたかどうかについて因果関係を明らかにし、ESG投資が企業行動に影響を与えたかどうかについても因果関係を解明したいとしている。これらは、分析結果がまとまったのちに公表するとしている。
引き続き、GPIFが大規模に、かつ、継続的に進めているスチュワードシップ活動に注目していきたい。(イメージ写真提供:123RF)
ウエルスアドバイザー