なぜヤクルト村上宗隆は12試合53打席ノーアーチの“56号スランプ“に陥ったのか…3冠もピンチで残り3試合
日本選手のシーズン最多本塁打記録更新に王手をかけているヤクルトの村上宗隆(22)は29日、マツダスタジアムで行われた広島戦で5打数1安打も3三振でノーアーチに終わり、待望の56号は、またしてもお預けとなった。これで13日の巨人戦で55号を放って以来、12試合、53打席ノーアーチ。4試合、18打席ぶりのヒットで打率を.317とし、横浜DeNA戦の4打数ノーヒットで打率.314に落とした中日の大島洋平(36)を上回り、かろうじて“3冠“をキープしたが、スランプ脱出の兆しは見られない。村上に何が起きているのか。そして残り3試合で記録を更新する可能性は?
「打ちにいく際にグリップが下がりバットが下から出る」
村上は悲しく下を向いた。一度、広島の守護神、栗林の方をチラっと見ただけで、うかない表情でベンチへ下がる。5―4で迎えた9回に先頭打者として、この日5度目の打席が回ってきたが、カウント1-1から、ほぼ真ん中の甘い145キロのカットボールに詰まってファウル。最後は真ん中高めの154キロのストレートに空振りした。 今季マツダスタジアムでは8本塁打。ビジターで最も本塁打を打っている得意の“広島の地“でも待望の56号は出なかった。試合には勝ち、CS出場を狙う広島に手痛いゲームを突きつけたが、ヤクルトファンだけでなく、プロ野球ファンをガッカリさせた。 これで13日に巨人戦で大勢の外角低めの難しいボールを逆方向に運び55号をマークして以来、12試合、53打席ノーアーチ。もちろん、今季最長ノーアーチの更新である。 7回一死の第4打席にケムナからライト前ヒットを放った。24日の横浜DeNA以来、4試合、18打席ぶりのヒットが、スランプ脱出のきっかけになるかと期待されたが、そんな単純な不調ではなかった。 ヤクルトOBで楽天、巨人、西武で“参謀“を務めて、現在は、新潟アルビレックスBC監督である橋上秀樹氏は、スランプの原因をこう分析する。 「構えた位置から最短距離にバットが出てくるのが村上の特長だが、今は、一度グリップが動き、そこから振り出すのでバットが下から出ている。だから空振りが多く、打ち損じが目立つ。ファウルの内容が悪い。右肩を入れて構えるが、下半身の開きもやや早く、引っ張ろうという気持ちが強く出過ぎている」 とにかく三振の多さが目立つ。この日も4回一死一塁で先発森下が外角に投じた140キロのツーシームをバットにかすらせならがも三振。1-4で迎えた5回には二死満塁の一発出れば逆転の絶好機に打席が回ってきたが、外角への151キロのストレートのボールの下を振って空振りの三振に終わっている。これで8試合連続三振。この12試合で三振していない試合は、1試合だけで、実に42打数で20三振。三振率は、打数の半数の迫る.476である。 橋上氏が解説する。 「1本の壁です。間違いなくプレッシャーから来る力みと焦り。実は、バッティングの8割を占めるのがメンタルで、ホームランを打ちたいという気持ちと、余裕の無さが、村上ほどの打者でもバッティング技術のメカニズムを狂わせている。村上も人間だったということ。野村克也さんが良く言っていたのが、“ホームランは魔物や“という言葉。これは、ホームランバッターではないバッターのことを指して言っていたのだが、そういう打者がホームランを打とうと考えるとバッティングが簡単に崩れる。55号も打っている村上にあてはまる言葉ではないが、強く引っ張ってホームランを打とうと意識すると村上でも崩れる。それだけバッティングとはデリケートなもの。事実、この42打数の中身を見ると、凡退するにしても逆方向に飛んだ打球は、6本しかない。外のボールを逆方向に強くコンタクトしてホームランにしてしまうという村上の良さが消えてしまっている」