「緑内障」と「白内障」が同時に発症したときの対処法はご存じですか? 治療法や注意点も医師が解説!
緑内障と白内障を併発するケースは多い
編集部: 白内障が緑内障の原因になることもあるのですね。 庄司先生: そうです。緑内障には様々な種類があり、白内障によって引き起こされるのは「閉塞隅角(へいそくぐうかく)」というタイプの緑内障です。隅角とは、目の表面の組織(角膜)と茶目(虹彩)が交わる場所のことで、房水が目の外に抜ける排水溝がある場所です。この隅角がどんどん狭くなって排水溝が詰まってしまい、房水が目の外に出にくくなると、眼圧が高くなり緑内障を発症します。これを「閉塞隅角緑内障」と言います。 編集部: なぜ、白内障になると隅角が狭くなるのですか? 庄司先生: 白内障になると水晶体が白く濁り、光が通過するのを妨げてしまいます。本来、水晶体は直径が約9mm、厚さが約4mmで、非常に柔軟性に富んでいます。しかし、加齢とともに水晶体は濁るだけでなく、厚くなっていきます。その結果、水晶体の前側にある虹彩を押し出すようになり、隅角を狭くしてしまうのです。 編集部: 白内障が緑内障の原因になるということですね。 庄司先生: はい。閉塞隅角緑内障には、徐々に進行する慢性のものと、急激に眼圧が上昇することで起きる急性のものがあります。特に急性の場合、急激に隅角がふさがって眼圧が急上昇し、あっという間に失明に至る可能性があるので、非常に注意が必要です。 編集部: その場合、どのような兆候がみられるのですか? 庄司先生: 突然激しい頭痛や目の痛み、吐き気、嘔吐などが起こることが多いとされています。また、発作を起こした目は瞳孔が大きくなり(散瞳)、対光反射が消失して左右の瞳孔の大きさが異なります。これらの症状は脳血管障害の症状と似ているため、脳神経外科へ救急搬送されることも多いのですが、じつは目の疾患が原因で起きていることも多いのです。このような症状がみられたら、必ず眼圧を確認してもらいましょう。
緑内障と白内障の同時手術
編集部: 緑内障と白内障を併発している場合には、同時に治療をおこなった方がいいのですか? 庄司先生: 患者さんの状況によって異なるため、一概には言えません。ただし、白内障の手術と緑内障の手術は密接に関連しているため、どちらの病気についても詳しい眼科医とよく相談することをおすすめします。 編集部: どちらか一方の手術しかしないと、どうなるのですか? 庄司先生: 緑内障の手術にはたくさんの種類がありますが、一部の緑内障手術では緑内障の手術だけをおこなった場合、術後に白内障はさらに進行することが知られています。緑内障の手術をしたとしても、結局数年以内に白内障手術が必要となる人も多いですね。すでに白内障による視力低下を自覚している段階であり、緑内障も軽度であれば、同時手術を提案しているケースが多いと思います。 編集部: 「白内障の症状があるかどうかで決める」という考え方があるのですね。 庄司先生: そうですね。40代を例に挙げると、まだ白内障がみられず、水晶体による調節力も残存しているケースが多い印象です。この場合、緑内障の症状が出ている目だけを治療します。「いずれ白内障になるなら、緑内障と白内障の手術を同時におこなおう」とすると、術後、老眼の症状が悪化することがあるからです。しかし、60代以降では既にピントの調節力が弱くなり、老眼も出現していることが多いので、その場合には緑内障と白内障の同時手術を提案することが多いですね。 編集部: 同時手術とは、具体的にどのようにしておこなうのですか? 庄司先生: 白内障の手術では、水晶体を人工のレンズと入れ替えるのが一般的です。それと同時に、緑内障の手術もおこない、房水の流れをよくする治療をおこなうことで眼圧を下げ、緑内障の改善も目指します。こうすることにより、白内障による見えにくさを解消できるほか、眼圧を下げることができ、緑内障治療で使用される点眼薬の減薬や休薬が期待できます。 編集部: その際の注意点はありますか? 庄司先生: 近視が強い人は、特に注意が必要です。近視が強いほど緑内障にはなりやすいことが知られているため、もともと近眼が強く、さらに白内障と緑内障を併発されている人は少なくありません。そのような場合、白内障の手術の際に眼内レンズの度数を調整すると近視の度数を大きく減らすことができ、眼鏡の厚みを薄くすることができます。 編集部: 近視の人は注意が必要ですね。 庄司先生: はい。特に片目だけ手術をするのか、それとも両目を手術するのか、入念に検討する必要があります。もし、片目にだけ緑内障の症状が出ていた場合、その目だけ手術すると左右の度数が大きく異なる、いわゆる「ガチャ目」の状態になってしまいます。そのため、手術をする際にはもう片方の目の状態も評価した上で、最良の選択肢を相談して決定することが大切です。 編集部: 両目を同時に手術して、目の負担はないのですか? 庄司先生: 通常、両目同時に手術をするときには、まず片目を手術し、その2週間後くらいにもう片方を手術します。最近では低侵襲の術式も確立されています。例えば当院の場合、切開が必要ないトラベクロトミーマイクロフックを使った「MIGS(低侵襲緑内障手術)」をおこなうケースが最も多くなっています。MIGSにより、体への負担が少なく、スムーズな回復が期待できます。MIGSは安全性も高く、視力の回復も早いのですが、眼圧を下げる効果はほかの手術と比べると若干劣ることも知られています。そのため、患者さんの目の状態によっては別の術式を提案することもあります。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 庄司先生: 緑内障の治療法はこの10年間で大きく変化し、術式も多様化しました。白内障と緑内障の同時手術の術式選択には知識と経験が必要となるため、医師の選択も重要になります。治療経験が豊富な医療機関に相談するようにしましょう。特に重要なのが、白内障手術でのレンズの選び方です。現在は多焦点眼内レンズが注目を集めていますが、緑内障の患者さんに多焦点眼内レンズを適用した症例のデータは、現状まだ蓄積されていません。緑内障の専門家としては、緑内障の患者さんの場合、多焦点眼内レンズを選択するのは慎重になった方がいいと考えています。