トヨタ7号車、大逆転勝利目前で無念の黄旗違反。サテライトの83号車フェラーリが初優勝【WEC第6戦オースティン後半レポート】
アメリカ・テキサス州オースティンに位置するサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で9月1日に行われたWEC世界耐久選手権第6戦『ローンスター・ル・マン』。暑さのなか6時間で争われた決勝レースでは、AFコルセの83号車フェラーリ499P(ロバート・クビサ/ロバート・シュワルツマン/イーフェイ・イェ)が初優勝を飾った。 【写真】イエローフラッグ提示時の違反によりペナルティを受けた7号車トヨタGR010ハイブリッド 9番手からスタートしたトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)はレース中盤に首位に立ったが、終盤にイエローフラッグを無視したとしてドライブスルーペナルティが科せられた結果、2位でレースを終えている。 9マニュファクチャラー/18台のGT3マシンで争うLMGT3クラスでは、ハート・オブ・レーシングチームの27号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3(イアン・ジェームズ/ダニエル・マンチネッリ/アレックス・リベラス)が勝利を収めている。 2020年2月以来のWEC開催となるCOTA。6時間の決勝レースは現地時刻13時にスタートした。ポールポジションの51号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)がホールショットを奪い、83号車フェラーリ499P(AFコルセ)が2番手に続くが、30分経過時点で83号車が前に出て、以降のレースをリードしていった。 スタート直後のターン12では混乱もあるなか、9番手スタートの7号車トヨタは6番手へとポジションアップ。2時間経過を前に、51号車フェラーリのアントニオ・ジョビナッツィが2回連続でスピン、その後リスタートするも、スロー走行でピットへと戻り、ガレージへ押し戻されてしまう。 2時間経過前後で行われた2回目のルーティンピットのタイミングでマイク・コンウェイへと代わった7号車は、全車のピット作業が完了すると2番手へとポジションアップ、83号車フェラーリのイーフェイ・イェを追う展開となった。 レース折り返しとなる3時間経過時点では83号車フェラーリが首位、その約9秒後方に7号車トヨタ。さらに約5秒後方に2号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)がつけ、以下50号車フェラーリ、20号車BMW Mハイブリッド V8(BMW Mチーム WRT) 、8号車トヨタと続き、7番手の6号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)がやや早めのルーティンピット作業を行う状況となった。 LMGT3は2時間30分経過を前に、表彰台圏内を争っていた85号車ランボルギーニ(アイアン・デイムス)と81号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R(TFスポーツ)が接触。85号車はピットへと戻り、ガレージに入れられた。ポールポジションスタートの27号車アストンマーティンがクラスをリード、ポイントリーダーの92号車ポルシェ911 GT3 R(マンタイEMA)が2番手、81号車シボレーが3番手に続き、後半戦へと突入していった。 ※レース前半の詳細レポートはこちら(https://www.as-web.jp/sports-car/1121878) ■8号車トヨタのブエミ、意地のブロックで6号車ポルシェと接触 現地時刻16時にスタートから3時間を迎えても、気温34度/路面温度51度と、COTAの暑さは続いた。 3時間経過前後から、上位勢の3度目のルーティンピットが始まり、6号車ポルシェにはアンドレ・ロッテラーが乗り込む。首位の83号車フェラーリはイェが2スティント目へ突入。一方、7号車トヨタはニック・デ・フリースへと再び交代した。50号車フェラーリは左側2輪交換を行い、ドライバーはニクラス・ニールセンのままコースへと戻ると、2号車キャデラックの前に出て実質3番手へと浮上。この50号車フェラーリは右リヤのみハードコンパウンドを履くなど、タイヤ戦略にはばらつきも見られている。 8号車トヨタはブレンドン・ハートレーへとドライバー交代を行うが、6号車ポルシェの先行を許す形となった。もっともピットライミングを引っ張ったロビン・フラインスの20号車BMWは5番手のままコースへと戻っていく。 2番手の7号車デ・フリースは、首位の83号車イェとのギャップを詰めていき、3時間半が経過する頃には1秒を切ってテール・トゥ・ノーズの状態となる。ハイパーカークラスのバックマーカーをかわしながらの攻防となったこの首位争いは、次のルーティンピットまで30分近くにわたって続いた。 一方で8号車トヨタのハートレーは6号車ポルシェのロッテラーに迫るも、こちらもなかなか接近戦には持ち込めないが、4時間経過直前にターン15で前に出る。ロッテラーはそのままピットへと向かい、ケビン・エストーレへとドライバー交代を行った。 直後に2番手の7号車もルーティンピットへ向かい、チーム代表を兼任する小林可夢偉へとドライバー交代。同時にミディアムの4輪交換を行い、翌周ピットに向かった83号車に対してアンダーカットを狙う。4輪交換(右リヤのみハード、他3輪ミディアム)しピットアウトしたロバート・シュワルツマンの横を駆け抜けた7号車トヨタは、これで実質首位へと浮上することに成功した。 この他の陣営も次々と4度目のルーティンピットを行うが、94号車プジョー9X8(プジョー・トタルエナジーズ)がコース脇にマシンを停めたことで、フルコースイエロー(FCY)が導入された。この時点で、上位勢では20号車BMWと8号車トヨタのみピット作業を行なっていなかったが、FCY解除に相次いでピットへと向かい、20号車はシェルドン・ファン・デル・リンデへ、8号車トヨタはセバスチャン・ブエミへとつないでいく。 ブエミは6号車ポルシェの目の前でピットアウト。バックストレートでは2台がサイド・バイ・サイドの状態となり、ポジションを守りたいブエミは左側へとマシンを寄せていくが、コース外に出たエストーレの右フロントとブエミの左リヤが接触。8号車トヨタは左リヤタイヤを中心に損傷し、ブエミはスロー走行でマシンをピットへと戻した。 これで8号車は14番手にまで後退。さらに、接触の非があるとして、30秒のストップペナルティが与えられた。一方、ランキング首位の6号車ポルシェは単独の6番手走行となったが、残り1時間半を切ったところで5番手を走る20号車BMWにFCYの手順違反があったとしてペナルティが科せられると、ひとつポジションを上げることとなった。 ■ペナルティの理由は黄旗時に「速度を落とさなかった」 首位の7号車トヨタの可夢偉は83号車フェラーリとのギャップを11秒ほどにまで拡げ、レースは残り1時間へ。直後に、最後のルーティンピットが始まった。 まずは5番手の6号車ポルシェがピットへ向かい、次の周に7号車トヨタ、83号車フェラーリ、2号車キャデラックが同時にピットへ飛び込む。さらに次の周には50号車フェラーリも作業を行ってピットアウト。7号車トヨタ、50号車フェラーリは左側2輪交換でコースへと戻っていった。 13番手を走る8号車トヨタは、食あたりに見舞われている平川がふたたびコクピットへと戻るが、ブエミ乗車時の青旗無視によりドライブスルーペナルティが科せられさらに後退。 上位勢ではもっともピットを引っ張るシークエンスとなっていた20号車BMWが残り46分のところで最後のルーティンを終えると、6番手にポジションを戻した。 そしてこの終盤に来て、首位トヨタ7号車に悲報が。イエローフラッグ無視によりドライブスルーペナルティが発出されると、直後に5番手の6号車ポルシェにも同様の内容でペナルティが科せられた。 このペナルティ消化により、83号車フェラーリが残り40分というタイミングで総合トップに再浮上。可夢偉はその9秒後方となる。一方、6号車ポルシェのエストーレはペナルティを消化しふたつポジションを下げた。 残り33分というタイミングで、LMGT3のストップ車両の影響でFCYが導入される。この頃、7号車の無線では「チャンピオンシップを考えれば、2位でいい」との旨の指示がチームから飛ぶが、可夢偉からはイエローフラッグ無視のジャッジに納得ができないような様子が伝えられた。 なお、その後発行されたスチュワードのレポートには、「審査員はテレメトリデータ、CCTVビデオ、位置データを確認し、黄旗が掲示されたときにドライバーが速度を落とさなかったことを確認した」と裁定理由が記されている。6号車ポルシェへの裁定理由も同様のものだった。 FCY解除後、それでも83号車フェラーリと7号車トヨタとのギャップは詰まっていき、残り13分の時点では4秒を切る。残り4分ではその差は2秒を切ったが、ターン1で可夢偉がコース外にはらんだことで追撃は終了。最後は83号車フェラーリが、1.780秒差でフィニッシュラインへと逃げ切り、このサテライトチームにとって初めてとなる勝利を手にした。 3位は50号車フェラーリ、4位には2号車キャデラック、5位には35号車アルピーヌが入った。 20号車BMWには残り10分を切り、技術違反により100秒のストップペナルティが科せられたため、6番手の座を失うことに。代わってランキングリーダーの6号車ポルシェが6位を手にし、以下5号車ポルシェ、15号車BMW、36号車アルピーヌ、38号車ポルシェ(ハーツ・チーム・JOTA)までがトップ10フィニッシュを果たした。8号車トヨタは15位でチェッカーを受けている。 ■LMGT3は27号車アストンマーティンが快勝 LMGT3では、後半に入っても27号車アストンマーティンがセーフティマージンを保っていた。2番手には92号車ポルシェが続き、3番手を巡っては81号車シボレーのルイ・アンドラーデを、46号車BMW M4 GT3(チームWRT)のバレンティーノ・ロッシが攻め立てる場面も見られた。 5秒追加のペナルティを受けた46号車にかわり、やがて55号車フェラーリ296 GT3(ビスタAFコルセ)が3番手へとポジションを上げた。 その後ろでは、マキシム・マルタンに代わった46号車BMWと、91号車ポルシェのリヒャルト・リエツのプロドライバー同士による4番手争いも白熱。残り1時間半のところでリエツが前に出ると、表彰台争いに加わるべく前を追っていったが、5回目のルーティンピットを終えて残り1時間を迎える頃には、実質の3番手にふたたび55号車フェラーリが浮上する。 ここで55号車フェラーリのアレッシオ・ロベラと、その背後に迫る91号車ポルシェのリエツの争いが激化。しかし終盤、55号車には100秒ペナルティが科せられ、91号車ポルシェが表彰台圏内へと進出した。 一方で前半に表彰台圏内を走った81号車シボレーは、トラブルかガレージに入れられてしまう。また、46号車BMWのマルタンも、終盤スロー走行からマシンをピットへと戻すなど、上位陣に波乱が相次ぐレースとなった。 そんな後方の混乱をものともせずに快走を続けた27号車アストンマーティンがクラス優勝。20秒差の2位には、92号車ポルシェが入り、僚友の91号車ポルシェが3位に続いた。 4位には59号車マクラーレン720 S GT3エボ(ユナイテッド・オートスポーツ)、5位には31号車BMW、6位には77号車フォード・マスタングGT3(プロトン・コンペティション)が入っている。 序盤にピット作業でロスがあったという95号車マクラーレンは、最終ランナーとして佐藤万璃音が乗り込んだ。トラックリミット違反のペナルティもあったが、7位入賞を果たしている。 この他の日本勢では、小泉洋史がスタートスティントを担当した82号車シボレーが8位、木村武史がスタートを担当した87号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)は11位、Dステーション・レーシングの777号車アストンマーティンはリタイアとなった。 WECの次戦第7戦は、静岡県の富士スピードウェイで、9月13~15日に行われる。 [オートスポーツweb 2024年09月02日]