"島流し軍団"吉本 大宮セブンに支配人がかけた言葉「好きなことだけをやれ。お金はこっちで用意する」
2014年、新設された「大宮ラクーンよしもと劇場」に東京でくすぶっていた芸人が集められた。のちに「大宮セブン」と名付けられた若者たちは、「島流し」と揶揄されながらも劇場を盛り上げようと奮起する──。実話をもとにした映画『くすぶりの狂騒曲』が公開前から話題となっている。物語で主人公となっているタモンズの大波康平(42)と安部浩章(42)の2人を直撃し、波乱万丈の芸人キャリアを振り返ってもらった。(前・中・後編の中編)>>前編は下の関連記事からご覧ください。 【写真】そっくり? 映画の中でのタモンズ、すゑひろがりず、マヂカルラブリーら ──『くすぶりの狂騒曲』は実話をもとにしているということですが、映画化するにあたって実際とは違う点もあるんでしょうか? 大波 完全なドキュメンタリーではないですからね。たとえば映画の中では、岡田義徳さんが演じる諸積翔真という男がベリーハックというコンビでくすぶっているんです。それで僕ら2人とトリオを結成しようと企てる。だけど、このベリーハックというコンビは実在しないんですよ。 ──あれ? でも、タモンズが一時期3人になりかけたのは本当の話ですよね。 大波 そう、それは本当。実際に「トリオでやろう」と言ってきたのは僕らの同期で、今でもお笑いをやっています。だけど、映画の中ではお笑いを諦めて別の仕事に就いていますから。だから実話とはズレているんだけど、逆にそこが僕的にはめちゃくちゃリアルなところで……。というのも、今まで大宮セブンで10年間やってきて、僕らの周りでも夢破れて去った奴がいくらでもいたので。 安部 そうやな。大宮とは違うところでお笑いをやっている人もいるし、まったく違う業種で頑張っている人もいるし。 大波 「面白い」「絶対に売れる」って言われながら去っていった仲間が山ほどいた。本当に僕らはみんなの屍の上に立たせていただいているようなもので、その屍を凝縮したような人物が諸積翔真なんです。「あいつでもあるし、こいつでもある」みたいな人物像。 安部 映画では、僕ら大宮の芸人に対して「そんな無茶をしないでください」と注意する若い女性社員が出てくるんですよ。だけど実際はそんなスタッフはいなかったし、むしろ裏方さんぐるみで悪ノリするような感じでしたからね。結局、大宮がこれだけ盛り上がってお客さんが増えたのも、「なんでもやっちゃいましょう」って無茶やる僕らに寛容だった点も大きかったんじゃないかな。 大波 それは間違いなくあるだろうね。 安部 僕がここで言いたいのは「真実と違う! あんな厳しい女性マネージャーなんていなかった!」ということではないんです。メチャクチャやる僕らに対してツッコむ人がいるからこそ、映画として成立するんですよ。じゃなかったら、特殊な環境なんだということが観ている方に伝わらないじゃないですか。 大波 初代支配人に言われたのは、「お前らは好きなことだけをやれ。お金はこっちで用意するから」ってこと。「スポンサーを集めたりチケット売ったりするのは俺らの仕事だから」って何度も言われました。本来、興行ってチケットを売って人が集まらないと成り立たないものなんですよ。だけど、そこを度外視するような器の大きさがあったというか……。