今までの日本代表は伊藤洋輝を使い切れていなかった バイエルン移籍に”値する”裏付け【前園真聖コラム】
シリア戦で見えた伊藤の良さ
シュツットガルトで見せている伊藤の良さにはいろいろな部分があります。昨シーズンのシュツットガルトは基本的に4バックで、その左サイドバックに加えて左センターバックもこなしました。さらに3バックの左DFとしてもプレーできます。そこからの的確なフィードや対角線上の前線めがけたロングボールがチームのアクセントを作りますし、セットプレーでの高さも武器になっています。 その一方で、日本代表での伊藤はずっと完全にレギュラーとは言い切れない立場でした。2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の時は左サイドバックで、自分の前にいる三笘薫(ブライトン/イングランド)へのパスがなかなか付けられず、安全にバックパスを選択していたので積極性が足りないという評判になってしまいました。 ただ、これはチームの戦い方が伊藤の良さを引き出すためのものではなかったからです。三笘にしろ、そして今活躍している中村敬斗(スタッド・ランス/フランス)にしても、ボールを預けると個人で突破して行ってくれます。そのため伊藤は前の選手にスペースを与えるためにオーバーラップを控え、そのうしろでしっかりと守備を固めるという役に徹していました。 伊藤がもっと多くのプレーに関わることができるのは、シリア戦でも証明されました。後半40分、相馬勇気がペナルティエリアの横でボールを奪われ、シリアは反撃に移ろうと縦パスを出しました。そこに一瞬の判断の良さで伊藤がペナルティエリア付近まで飛び出してインターセプトしたのです。 伊藤がそのまま南野拓実にボールを預けると、南野はゴールに蹴り込んで日本の5点目を奪っています。南野に注目が集まりましたが、実は伊藤の良さが出た場面でした。 こういう場面から考えると、ここまで日本代表では伊藤の良さを生かし切れなかったと言えるかもしれません。しかし、ここに来て状況は変わりかけています。日本代表が3バックにより長く取り組むようになりました。そのことで3バックの左に入る伊藤がより個性を生かせる可能性が高くなったのです。 チーム全体でどうやってビルドアップするか考えていくなかで、伊藤の左足は重要な役割を果たすでしょう。ロングキックを生かしつつ、攻撃参加していく姿が見られるものだと思います。伊藤はバイエルンでさらに磨かれるでしょうから、その実力が森保一監督によってどう生かされていくのか、今後さらに楽しみになってきました。 [プロフィール] 前園真聖(まえぞの・まさきよ)/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。
前園真聖 / Maezono Masakiyo