「一生の固定客を増やす」まちゼミ伝道師 松井洋一郎さん
万年筆の売り上げを14倍増にできた理由
──まちゼミの受講生が固定客になりますか。 松井:受講生の2割から3割が固定客になってくれます。私の店の場合、会期1か月半ぐらいのまちゼミを年2回開催し、3人から5人ぐらいの受講生を対象に講座を数十回開く。講座の内容は追加講座や裏講座などで工夫を凝らす。年間200名から250名のお客様が受講され、50名から60名ぐらいの方が固定客として通ってくださるようになります ──受講生を固定客にできる店舗の魅力とは。 松井:個店は価格や品ぞろえでは大型店舗やネットショップに対抗できない。半面、個店の強みは経験、知識、人となり、おもてなし。顧客の潜在ニーズを顕在化すること。ワインをほとんど知らなかった人がワイン教室をきっかけにして、ワインに目覚めるかもしれない。おいしいお茶やコーヒーの楽しみ方講座を待っている方もいらっしゃいます。まだ気づいていない人生の楽しみや豊かさを、さまざまに提案できるのが、まちゼミです しかも、まちゼミで出会った顧客は、価格や品ぞろえに誘われて来店したわけではないので、リピート率が高い。値引き商品を求めて来店した人は価格を元に戻すと足が遠のきがちですが、『あなたから買いたい』と信頼してくださる人は、価格だけにとらわれることなく、ずっと足を運んでくれます 最近、消費者から、どんな商品を買っても、満足できない、幸せになれないという声が聞こえてきます。自分が本当にしたいことが分かっていないからではないでしょうか。私が加盟する商店街に、万年筆の年間売り上げを49本から7年間で700本まで伸ばした文房具店があります。立地が特別にいいわけではない。手紙を書く楽しさ、気持ちを伝える喜び。顧客が気付かなかった生きがいにつながるヒントを提供したことが、売り上げ増につながりました
ふた家族が生計を維持できる繁盛店に
──全国を飛び回っていて地方の状況は。 松井:地方創生に関して農林業や漁業の振興と併せて、商店街を含むまちそのものの再生が欠かせないが、後継者難が深刻だ。人口数万人のまちで、下駄の修理をする店の後継ぎがいなくなると、そのまちで下駄の修理ができなくなる。下駄が売れなくなり、下駄を履く伝統文化も途絶えてしまいかねない 四半世紀前には、各店舗で経営者の家族を含めて雇用者は平均5名いた。しかし、現在は1・5名まで低下している。ふた家族の生活が成り立たない。現店主のハッピーリタイアもたやすくない。少しでも固定客を増やして、売り上げや収益を確保できれば、後継ぎが戻ってくるかもしれないし、番頭さんが経営を引き継ぐことが可能になってくる ──後継者が希望を持てる商店街にしていけるか。 松井:現在、全国200か所以上の商店街でまちゼミが継続的に実施されている。確かな効果があるからです。大阪の駒川商店街では来年2月の初開催をめざして、綿密な研修会が続いている。かつてはまちの商店街が情報の発信基地だった。魚屋の店頭で初めて、今がサンマの旬だなどと教わった人もいたでしょう。まちゼミは今の商店街が忘れてかけていた役割を、もういちど取り戻す作業かもしれません まちゼミの手応えで、まちに必要とされているという誇りを持つ店が、全国的に増えてきた。まちゼミの受講生で、固定客になっていただける方は2割から3割ですが、生涯を通じた固定客になってもらえるかもしれません。私の店では50年通ってくださるお客様がいます。 店と顧客が固定客という信頼関係に結ばれ、一生付き合えるコミュニティづくりが理想です。ふた家族以上が生計を立てて商いを継続でき、まち全体にも活気がよみがえる好循環を広げていくためのお役に立ちたい (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)