トランプ氏とのたった5分の電話会談で石破政権に漂う不安
安倍流の面談にはリスクも
トランプ氏の特徴は首脳との1対1の個人的関係を重視する点にある。前政権でも安倍元総理とのゴルフ外交で貿易交渉のヤマ場を乗り越えた。中国の習主席、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、北朝鮮の金正恩総書記、イスラエルのネタニヤフ首相、フランスのマクロン大統領など、いずれもトランプ氏にとって前政権時からの長い付き合いの顔ぶれだ。 2016年11月、安倍元総理が当選直後のトランプ氏を訪問した「成功体験」に学んで、石破総理は近々米国訪問して面談を模索しているという。政府関係者は「これが勝負のポイントになる」とする。 しかし今や各国首脳が競って“トランプ詣で”に殺到しようとしている。しかも当時とは状況が明らかに違う。既に4年間の大統領を経験したトランプ氏が果たして石破首相に耳を傾けてくれるだろうか。仮に会えても石破流の「…ねばならない」は禁句だ。「会ってかえって逆効果」とならないよう願いたい。 ●韓国造船業への言及に見る、日韓の差 もう一つ韓国の尹大統領との電話会談で注目すべきことがある。トランプ氏が言及した韓国の造船業による米国軍艦の補修・整備への協力だ。前稿(「トランプ2.0、日本はどう向き合うべきか」)で防衛産業の協力の重要性を指摘したが、まさにその指摘通りのことを韓国との電話会談でトランプ氏は取り上げているのだ。 米国は世界トップの軍事大国でありながら、防衛産業は生産基盤の毀損が深刻だ。そこで1月に公表された米国防総省の国家防衛産業戦略でも同盟国・同志国との防衛産業協力を進めていくことが重要とされた。トランプ氏も「疲弊した防衛産業基盤を再建する」としている。 米国の造船所の建造能力もそうした分野だ。そのため船舶の補修・修理・整備で支障を来している。米国海軍の潜水艦の約30%が修理待機中という調査結果も公表された。そこで今年になってこの分野での協力を韓国が行うことで米韓間で協議が進められている。 トランプ氏はこう付け加えたという。「米国の造船業は韓国の支援と協力を必要としている。韓国の船舶輸出だけでなく、補修・修理・整備といった分野で韓国と緊密に協力する必要がある」。こうしたことがきちっと事前にトランプ氏にブリーフィングされているのだ。 一方、日本はどうか。日本も今年6月、日米の防衛産業協力の定期協議を立ち上げた。そこでは米海軍艦船や米空軍機の共同維持整備やミサイルの共同生産、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化に取り組むことで合意した。韓国以上にやっていると言っていいだろう。 それにもかかわらず、トランプ氏の口から言及されたのは韓国との協力だけだった。これは外交当局としては失点と言っていいだろう。早急に効果的にトランプ氏に売り込むべきだ。まさにこれは安全保障の問題で、「日米安保をより高い次元に引き上げる」と抽象論だけを語っている場合ではない。
細川 昌彦