柏が成功したポドルスキをイライラさせる作戦
明らかに苛立っていた。退場者を出してから10分とたたないうちに、柏レイソルに2ゴールを奪われて勝ち越された。対するヴィッセル神戸は、シュートを放つことすらできない。 時間だけが刻々と経過していくなかで、前節で衝撃的なデビューを飾ったヴィッセルのFWルーカス・ポドルスキが感情をむき出しにした。後半終了間際。味方からボールを奪い、相手ゴールへ迫った。 しかし、強引なドリブル突破が通用するほどJリーグは、ましてやJ1戦線の上位を争うレイソルは甘くない。すぐに対面の選手に潰され、最後のチャンスはシュートにまで至らずに潰えた。 レイソルのホーム、日立柏サッカー場に乗り込んだ5日のJ1第20節。2戦連発を期待されたポドルスキはシュートわずか2本、いずれも枠を大きく外して無得点に終わり、ヴィッセルも1‐3で逆転負けした。 「結果的によくない試合展開になってしまった。先週は勝つことができたが、これがサッカーというもの。勝利へ向けて、これからも一生懸命に頑張るだけだ」 ペナルティーエリアの外側、ゴールまで約20メートル以上もある位置からほとんどステップを踏むことなく、振り向きざまに利き足の左足を一閃。大宮アルディージャのゴール右隅を正確無比に射抜いた、先月29日の来日初ゴールはJ1全体に警戒心を与えた。 レイソルの最終ラインを統率する21歳の若きセンターバック、中谷進之介も衝撃を受けた一人だった。だからこそ、22歳の日本代表GK中村航輔、先のFIFA・U‐20ワールドカップに出場した20歳のDF中山雄太と対策を講じていた。 「あの距離からでも点を取れるところを見せられたので、ポドルスキ選手がゴール前でボールをもって前を向いたら、とにかくプレッシャーをかけようということは話していました」 たとえば後半29分。ゴール前でポドルスキにボールがわたった直後に、中谷が猛然と詰めよる。瞬く間にポドルスキとの距離を潰し、激しく体を密着させることで前を向かせない。 自慢の左足を振り抜けないと判断したポドルスキは、最終的には右側にいたMF三原雅俊へパスをせざるを得なかった。すでにイエローカードを一枚もらっていた中谷のファウルを厭わない闘志あふれるプレーを、センターバックを組む中山はこう解説する。 「相手をイライラさせたら、こっちの勝ちだと思っていました」 中谷のイエローカードも、ポドルスキとの接触でもらったものだ。前半31分。縦パスがヴィッセルの前線へ供給される。ターゲットのポドルスキが走る前方へ、中谷がコースを切る形で回り込んだ直後だった。 中谷の右手が顔に当たったポドルスキが、その場に倒れ込む。故意のプレーではなかったが、それでも中谷は警告の対象となる。そして、収まりがつかなかったポドルスキが怒り心頭の様子で中谷へ詰め寄り、一触即発の雰囲気を漂わせた。もっとも、中谷自身は冷静だった。 「手が当たってしまいましたけど、あの場面で自分が引き下がってしまったら、相手の思い通りになるというか。そこは負けないようにしました」 中谷は前半の段階から、ポドルスキの苛立ちを感じていたのだろう。だからこそ「相手の思い通り」という言葉を介して、ポドルスキの威嚇に屈しなかった覚悟のほどを示したことになる。