柏が成功したポドルスキをイライラさせる作戦
ならば、ポドルスキは何に対して苛立っていたのか。実はアルディージャ戦の前半から、いま現在のヴィッセルの攻撃陣に足りない点を痛感していた。後半が始まる直前のピッチでは来日以来、英語でコミュニケーションを取ってきたDF橋本和にこんな言葉をかけている。 「ストライカーというよりは本当の『10番』みたいなパサーを、このチームではそういう役割もやる」 ヴィッセルの中盤にはパスの供給役がいない。フォーメーションは「4‐4‐2」で、中盤はダブルボランチと汗かき役に徹する2人のサイドで構成される。これまでのキャリアでトップ下やサイドハーフでもプレーしたことがあるからこそ、ストライカーと司令塔の一人二役を買って出た。 アルディージャ戦に続いてレイソル戦でも、左タッチライン際に張ることもあれば、状況によってはボランチの位置にまで下がってビルドアップに参加。攻撃を活性化させよう奮闘したが、なかなか上手く機能しない。最前線で前を向けば、常に目を光らせている中谷や中山が間合いを詰めてくる。 待っていてもなかなかパスが来ない。それでも何とかボールをもてば、ファウルすれすれのプレッシャーにさらされる。そこへボランチの田中英雄を一発退場させた主審の判定が重なる。 相手選手へ報復した田中の行為はもちろん言い訳ができないが、ヨーロッパの舞台やドイツ代表で、試合中に気性の激しさを見せることが珍しくなかったポドルスキを苛立たせるには十分だった。 もともと運動量が多い選手ではない。アルディージャ戦もレイソル戦も総走行距離は9キロに届かず、フル出場した選手のなかで群を抜いて少なかった。日本独特の高温多湿の夏も考慮し、本来ならばストライカーの仕事に集中させたいが、チーム事情がそれを許さない。 しかも、キャプテンの渡邉千真、2戦連続で出番がなかった新加入のハーフナー・マイク、アギーレジャパンにも選出された田中順也、スタミナとスプリント力に長けた小川慶治朗と、チーム内ではフォワード陣がやや余り気味といっていい。 開幕戦で左ひざに大けがを負った昨シーズンの得点王レアンドロも、予定では終盤戦で復帰する。さらにはこの夏の移籍市場で、鹿島アントラーズの元日本代表FW金崎夢生の獲得にも動いている。ポジション間のバランスがさらに歪になれば、それだけポドルスキにかかる負担も増える。 9日の次節はホームのノエビアスタジアム神戸にアントラーズを迎える。試合巧者でもある昨シーズンの王者は、レイソル以上にプレッシャーをかけてポドルスキを揺さぶってくるだろう。ドイツ代表で一時代を築いた男のイライラは、当分続きそうだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)