赤ちゃんは12か月もかけて音の流れを聞き、ひたすらその分析に取り組み続けていた…私たちが知らない「赤ちゃんの努力」
「子どもはラクラクとことばを覚えられてうらやましい」「幼い時から外国語に触れていたら、今頃はバイリンガルになれたのに…」。いずれも「ことばの学習」についてよく耳にする一言です。一方「赤ちゃん研究員」の力を借りて、人がことばを学ぶプロセスを明らかにしてきた東京大学の針生悦子先生は「赤ちゃんだってことばを覚えるのに苦労している」と断言します。その無垢な笑顔の裏で、実は必死にことばを学んでいた…あなたは信じられるでしょうか? 書籍『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』をもとにした本連載で、赤ちゃんのけなげな努力に迫ってまいりましょう。 【グラフ】胎児に音はどう届いている? * * * * * * * ◆赤ちゃんと大人の「言葉の学び方」の違い そもそも赤ちゃんは、周囲の人の話し声のなかにどのような単語が含まれているかもまったく知らないところからスタートします。たとえ大人でも、知らない外国語での会話を聞かされて、そのなかから単語を見つけなさい、などと言われたらうんざりすると思います。 赤ちゃんは、音のつながり方を手がかりにして、単語を自分で見つけていきます。確かに、単語はいつも同じ音のかたちをしていなければならないのだから、この方法は王道です。 王道なのだから大人にも使えないはずはありません。しかしそういう気持ちで、大人の私が、よく知らない外国語のおしゃべりを横で聞いて、単語を見つけ出せた試しはありません(根気もないのですが)。 それでも、そうするしかないというのが、まさに赤ちゃんの置かれた状況です。大人との最大の違いは、赤ちゃんはそこから逃れられないということでしょうか。
◆話す人の性別や話す調子が変わると… ただし、大人に根気があっても、この王道の方法だけではなかなかうまくいかないのには、もちろん訳があります。それは、「どの音とどの音は区別し、どのような音のゆれであれば無視して、それは同じ音として聞くか」が言語によって違うからです。 つまり「その言語ならではの音の聞き方」がわからなければ、音のつながり方が100%かどうかも計算できないのです。 生後8か月の赤ちゃんも、音のつながり方を手がかりに単語を見つけ出すことができるようになっています。しかしその一方で、「その言語ならではの音の聞き方」がしっかり身についているかと言えば、まだ完全でもありません。 そのようなわけで、話す人の性別や、話す調子が変わったりすると、同じ音のつながり(単語)だとわからなくなったりします。