F1の冷却技術を手掛けるリアクション・エンジンズが経営破綻 今後のPU性能への影響懸念
エンジンの研究・開発を行っていた英リアクション・エンジンズが10月末までに英大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の管理下に入った。すでに従業員の8割以上が解雇されており、事実上の経営破綻と見られる。リアクション・エンジンズの冷却技術はフォーミュラワン(F1)世界選手権でも用いられており、今後の影響が懸念される。 英スカイニュースによるとリアクション・エンジンズは1989年に設立され、元英国防大臣のフィリップ・ダン氏が会長を務めていた。マッハ5以上の速度で飛行できるロケットエンジン「SABRE(サーブル)」を開発し、宇宙空間を飛行できるスペースプレーンへの搭載を目指していた。英ロールス・ロイスなどとも提携し、今年10月にはアラブ首長国連邦(UAE)の戦略開発基金と約2000万ポンドの追加資金調達を協議していたが、交渉が頓挫したという。 サーブルに使われるリアクション・エンジンズの「プリ・クーラー」技術はF1のパワーユニット(PU)にも活用されているという。プリ・クーラーはヘリウムガスが流れる数千本もの束状のチューブを介して、1000度の空気を100分の1秒でマイナス150度に冷却できるとしている。2019年の米国防高等研究計画局(DARPA)との地上試験では期待通りの性能が発揮できたという。 これに着目したのがメルセデスAMG・F1チームで、22年シーズンにはPUへの空気の取り込み口を極小化したマシンを実戦投入した。F1の規則ではPU開発は22年以降凍結されているものの、インタークーラーなど熱交換器分野は開発が可能で、競争力向上に寄与しているとみられる。 メルセデス・ベンツ製PUは、今シーズンの年間ランキングの首位に位置する英マクラーレンなど複数の有力チームに供給されている。ホンダが復帰する26年にはPU規定が変更となり、新たなPUが導入されるが、今回の経営破綻が各チームの競争力にどのような影響を及ぼすのか注目される。 (中村 俊甫)