モバイル決済アプリの新機能で「個人投資家の市場参入」の促進を狙う「フィリピン政府の目論見」
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は重要インフラである通信と電力の最新のトピックを解説していきます。 【動画】日本のシン富裕層✖︎永住権・移住
個人投資家の市場参入促進策…懸念は過去の不祥事
フィリピン政府は、モバイル決済アプリ「GCash」を通じて、一般の人が簡単に政府証券に投資できる新機能「GBonds」を導入する計画を進めています。財務省はこれにより個人投資家の市場参入を促進し、政府の資金調達能力を向上させることを目指しています。 「GBonds」を利用することで、GCashのユーザーはアプリ内で簡単に政府証券を購入・売却できるようになります。財務省は現在、最低購入金額などの詳細を調整中ですが、低額から投資可能にすることで、幅広い層の国民が国債市場への参加を可能にすることを目標としています。たとえば、過去のリテール・トレジャリー・ボンド(RTB)販売時のように最低購入額が5,000ペソ程度に設定されれば、多くの国民にとって手の届く選択肢となると期待されています。一方で、最低購入額が10万ペソ以上のように高額になると、既存の富裕層向けサービスとの差別化が難しくなると懸念されています。 低額投資の普及により、政府証券がより多くの国民にとって現実的な選択肢となり、特にトレジャリービル(短期国債)への関心が高まる可能性があるとの指摘があります。また、GCashのユーザー基盤を活用すれば、個人投資家からの参加が広がり、借入れコストが10~20ベーシスポイント低下する可能性があるとの予測も。さらに、GCashが持つ9,400万人以上のユーザー基盤を通じて、短期的には200億~300億ペソの追加資金を調達できる可能性も指摘されています。 一方で、小口投資家市場の規模がまだ未知数であり、この新機能が政府の資金調達にどれだけ寄与するかは時間を要する可能性があるとの指摘も。また、現時点では大口の機関投資家が政府証券市場の主な参加者であるため、GBondsの貢献は当面は限定的であるとの見方もあります。 そして、GCashでは過去に不正取引やシステムエラーが発生しており、これが投資家に不安を与える可能性があります。しかしGCashがこれまでも迅速に問題を解決してきた実績があり、適切なセキュリティ対策が施されれば、投資家の信頼は回復するとされています。