麦倉正樹の「2024年 年間ベストドラマTOP10」 「量」よりも「質」を願いたい地上波ドラマ
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第5回の選者は、ライターの麦倉正樹。(編集部) 【写真】大石静の揺るぎない信念が見えた『光る君へ』 1. 『地面師たち』(Netflix) 2. 『光る君へ』(NHK総合) 3. 『虎に翼』(NHK総合) 4. 『宙わたる教室』(NHK総合) 5. 『おいハンサム!!2』(東海テレビ・フジテレビ系) 6. 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系) 7. 『海に眠るダイヤモンド』(TBS系) 8. 『不適切にもほどがある!』(TBS系) 9. 『海のはじまり』(フジテレビ系) 10.『滅相も無い』(MBS/TBS) 「もうええでしょう!」とか言うまでもなく、今年いちばん話題になったドラマは、やはり『地面師たち』なのではないだろうか。実際、内容もイッキ見必至の面白さだった。過去に注目を集めた実際の事件をモデルとしつつも、いわゆる「実録」形式ではなく、原作小説が持つドラマ性をケレン味たっぷりにアレンジしたプロットが秀逸だった。2022年に『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)で名を馳せた大根仁監督の新たな代表作となるのは間違いないだろう。それにしても「豊川悦司=ハリソン山中」というイメージは、今後しばらくのあいだ残り続けるのではないだろうか。それぐらい鮮烈なキャラクターだった。 2、3、4は、すべてNHKのドラマ。正直に言うと、自分も不安視していた側の人間ではあったのだけど、『光る君へ』は年間を通じて毎回楽しみに観ていた。昨年よりも遥かに。紫式部と藤原道長の関係性を主軸としつつも、やがて「物語」そのものについて――「人はなぜ物語を書くのか?」「物語は人に何をもたらせるのか?」といったテーマまで浮かび上がらせる脚本の手際に舌を巻いた。まさしく手練れの仕事である。回想シーンの連打ではなく、主人公まひろ(吉高由里子)が「嵐が来るわ」とつぶやくハードボイルドなラストシーンも良かった。 『虎に翼』も毎日楽しみに観ていた。そして、さまざまなことを考えさせられた。日本初の女性弁護士のひとりであり初の女性判事及び家庭裁判所長である「三淵嘉子」をモデルとしつつも、単なる立身出世物語ではなく、主人公の周辺にいる人物たちをしっかりと描きながら、彼/彼女たちの「思い」を――その「無念」も含めて「繋ぐ」ことの大切さ。それをしっかりと描き出した物語に深く心を打たれた。伊藤沙莉をはじめ、主要キャストたちの好演はもとより、土居志央梨、片岡凜、川床明日香など、それまで知らなかった役者たちの「発見」という楽しみもあった。あと、主題歌を担当した米津玄師の作品理解度は、改めて当代随一だなと思った。 『宙わたる教室』は、どこか懐かしさを感じる話ではあったものの、定時制高校の生徒たちが「科学部」の活動を通じて「知ること」の喜びを感じると同時に、異なる出自の人々と繋がり合う光景が、たまらなく美しかった。たたずまいで魅せる役者・窪田正孝の巧さは言うまでもなく、小林虎之介をはじめとする生徒たちの好演も光った。同時期に同じNHKで放送されていたアニメ『チ。―地球の運動について―』と合わせて、改めて「知ること」の「興奮」と「喜び」について考えた。それはある意味、「コスパ」や「タイパ」といった言葉の対極にあるものなのかもしれない。 2022年のベスト10に選出した『おいハンサム!!』のシーズン2の制作・放送は嬉しい驚きだったけれど、その後、まさかの映画版が公開されるに至っては、さらに驚いた。そんなに人気ドラマだったのか! とはいえ、どちらも特に気負ったところはなく、「恋」「家庭」 「ゴハン」が組み合わさったホームコメディ(?)として安定した面白さを放っていたけれど、本作の脚本・監督を担当する山口雅俊の「こういう晴れやかな気持ちになったのは、竹内結子さんと作った『ランチの女王』以来な気がします」というコメントには、少しハッとするところがあった。観ている側としても、「晴れやかな気持ちになる」ドラマって、昨今すごく少なっているような気がする。あ、それもあって『宙わたる教室』が響いたのかもしれない。