ネット社会・民意の参加者「個室の大衆」 安倍解散vs小池劇場に見るSNS政治
小泉・安倍・小池
ネット社会とはいえ、テレビの影響力が弱くなったわけではない。依然として民意の形成に最大の力をもっている。 小泉純一郎元首相は、郵政をはじめとする諸機関の民営化を掲げ、日本をアメリカのような競争社会に変えようと、みずからの政治母体である自民党を「ぶっこわす」と発言する。反対意見をすべて「抵抗勢力」とし、その選挙区に若手と女性を刺客として送り、端的で明快なセリフによって争点を明らかにして、選挙に圧勝した。 政治を「劇場化」したとされる。 颯爽とした長髪姿は、それまでの自民党のいかにもオヤジ風な派閥の領袖とは異なる、かつてのケネディを彷彿とさせるイメージがあった。「小泉劇場」といわれるが、劇場のオーナーは主としてテレビであり、SNSの力はまだ弱かった。 そしてテレビの質も変わってきた。 ケネディ時代のテレビは、活字に代わるものであったが、小泉時代のテレビは、ネットに代わられようとするものであり、クールというより、劇場的な熱さ=ホットが必要とされた。報道番組として、ニュースよりワイドショーが力をもった。 安倍晋三首相とネットとの関係はこれまでも指摘されていた。「日本会議」という国粋主義的な思想団体に支えられると同時に、俗に「ネトウヨ」と称される、中国や韓国の反日に対する感情的反感を基本とする「反・反日」の、ネット上の右寄り勢力にも支えられているのだ。 中曽根元首相は、レーガン米大統領、サッチャー英首相とともに「新保守」とされたが、安倍首相は、いわば「伝統保守と新新保守の融合」である。彼は、ネット時代の首相であり、トランプ大統領と同様、ブログ、フェイスブック、ツィッターといったSNS時代の首相なのだ。 一方、民進(これまでの)、共産、公明の各党は、強力な機関紙を有する組合や思想や宗教といった、活字時代の政治手法に支えられている。 これに対して、小池百合子都知事は、もともとニュース・キャスターであり、まさにテレビの申し子だ。その露出度、演出力、タレント性は、群を抜いている。もちろんSNSにも敏感で、利用しようとするが、テレビに比べれば弱い。案の定、小泉を味方にして、安倍の弱点である原発、増税、改革を争点にし、民進その他に対しては、保守を明言しながら選別的に統合しようとしている。 つまり今回の選挙戦は、「活字とテレビとネット」が、微妙にバランスを変えながら戦っているのである。その過激な流動性は、これまでの政治常識による予断を許さない。