「夜の街」を支えるワンオペ薬剤師――深夜営業の薬局から見た、「震源地」歌舞伎町の景色【#コロナとどう暮らす】
神奈川県出身で、歌舞伎町には縁もゆかりもない中沢さん。薬科大を卒業後に就職した大手の調剤薬局で、繁華街近くの夜間薬局という「ブルーオーシャン」に気づく。 「当時は、そんなことやる薬局もなかったんですよね」 日本有数の歓楽街に狙いを定め、住まいを歌舞伎町の近くに移す。東京・阿佐谷の薬局に転職して開業資金を貯めること8年、35歳でニュクス薬局のオープンに至る。 開業当初は赤字続きだった。夜間に診療する病院は近くに1軒だけ。一番近くの病院は、院内で薬を処方していた。その病院も今では処方せんを出す。渋谷や池袋の夜間診療の病院から客が訪れるようになり、常連客も増え、2年目に黒字化。それから昨年まで、順調に経営を続けてきた。
「闇営しかない」「歌舞伎町と言われてクビに」
そんな日常を、コロナ禍が襲う。 4月7日に緊急事態宣言が出されると、歌舞伎町はゴーストタウンと化し、痴漢やひったくりが増加。薬局は普段通り営業したが、客が1桁の日もあった。売り上げが前年比で半分以下になった月もある。宣言解除後も、東京アラートの影響か客足は戻らず、「夜の街」として名指しで批判されるようにもなった。 「夜のお店で働いている子のほとんどは歩合で補償もない。お給料がゼロになったとか、家賃が払えないなんて話も聞きました。経営者は特に、小池(百合子)さんへの不満をかなり口にしていましたね」 「渋谷や池袋、六本木で夜の仕事をしている子たちも、働き終わったら歌舞伎町に来て遊ぶ。夜の仕事をしている子はホストクラブにも行きますよね。バーもほとんど顔見知り。学校なんかと一緒ですよね、非常に狭いコミュニティーなんです」 PCR検査で歌舞伎町の陽性者数が多かったことについては、「新宿区長が店にお願いをして回って、ホストクラブやキャバクラがPCR検査に協力している。検査数が多いんだから当然陽性者は増えますよね」と話す。 中沢さんが、ようやく客が戻ってきたと感じたのは、6月半ば。その後、コロナ前の7割くらいの客足で推移しているという。 「うちは赤字もないけど黒字もないという感じ。飲食店や風俗店は今でもきついみたいですね。3密を避けてと言われているのに、新宿のハローワークには行列ができていた。ぱったり見なくなった患者さんもいます」